店舗と同じAIの提案力で、ジュエリーをより身近なものに – 「ヴァンドーム青山」
上質な日常使いのジュエリーを提案するヴァンドーム青山は、全国各地の百貨店を中心に直営店を出店する、国内の代表的なジュエリーブランドです。2023年に創業50年を迎える同ブランドの運営企業、株式会社ヴァンドームヤマダは、ベーシックな商品であっても品質を追求しつづけ、幅広い年齢層のお客様から信頼を得てきました。
コロナ禍を経てジュエリーへのニーズも変わりつつあるいま、同社はオンラインセールスという新たなフィールドで、どのような付加価値を創り出そうとしているのでしょうか? ヴァンドームヤマダの竹内 智彦氏に、お話を伺いました。
【INDEX】
・高額製品だからこそ大切にしてきた、店舗での対面販売
・ブランドイメージの維持・向上と、買い物のしやすさの両立を目指すEC運営
・複数の接客ツールの中から、提案力向上に繋がるパーソナライズ機能を優先して整備
・レコメンドでジュエリーの併せ買いが活性化。サイトの売上を1割押し上げる
高額製品だからこそ大切にしてきた、店舗での対面販売
百貨店でのリテールが中心だったヴァンドーム青山が、ECでの展開を始めた理由をお聞かせください。
当社のネット販売は、2009年にブランドサイトとオンラインショップ機能を兼ねて販促・広報部門でスタートしました。
もともとヴァンドーム青山は、ベーシックで品質の良いジュエリーをお届けするために、店舗でスタッフがお客様と直接対話して、お客様一人ひとりに合ったものを販売するという方針を貫いてきました。
インターネット上でも、ブランドサイトはあっても販売は行ってこなかったのですが、このサイトの問い合わせフォームなどに直接、当社のジュエリーを売って欲しいという問い合わせが入るようになったのです。
当社は全国に100店舗以上を展開していますが、店舗ごとに在庫状況が異なりますし、様々な事情で店舗にご来店しづらいお客様もいらっしゃいます。商品を気に入っていただき、どうしても欲しいというお客様の要望に応えるため、ブランドサイトを管理していた広報部が、お問合せベースでの販売を始めるようになりました。
そこでの販売ボリュームがかなり大きくなってきたため、きちんと体制を整えようということになり、2010年代後半から営業部に移管しECサイトを整えていきました。
EC推進の職責を担う、ヴァンドームヤマダ 竹内 智彦氏
店舗の代替がECの出発点だったようですが、ジュエリーをECで積極的に買いたいというニーズは、増えているのでしょうか?
ジュエリー業界全体の傾向を見ると、コロナ禍以降ブライダル需要が落ち、百貨店はラグジュアリー製品に転換している傾向があります。当社がフォーカスするベーシックなジュエリーも、売れる商品の傾向が変わったり、買い方そのものが変わったりしています。いま、当社のEC化率は10%弱といったところですが、売上拡大の余地は大きいと考えています。
ジュエリーの売れ方は、地方によって違いがでるのですが、ECは地方の個性がぜんぶミックスされたような商品の出かたをします。購買年齢層も百貨店以上に、幅広く広がっています。そのうえで、ECならではの販売傾向も見えてきました。たとえば店舗では良く出るピンクゴールドの商品が、ECでは意外と動かない場合があります。このような固有のニーズに応えていくことで、勝機は広がっていくと思います。
ブランドイメージの維持・向上と、買い物のしやすさの両立を目指すEC運営
どのような組織体制でECを運用されていますか?
直営店販売、百貨店販売に続く第3の柱として、第三営業部が卸売販売と併せてEC販売を運営しています。
営業部という立場ですので、システム運営は情報システム部門が担当し、またデジタル広告などのマーケティングに関しては部外に発注するという形をとっていますが、理想としては、システムもマーケティングも一つの部署の中で完結することがいいのではないかと考えています。
やはり、ジュエリーという嗜好品を販売しているのですから、ブランドイメージは重視しなければなりません。また、当社ECサイトは幅広い世代の方が利用されていますので、システム面での細やかな配慮も必要です。ECサイトのフロントだけでなく、プロモーションも、システムも、一体的にグリップしていくことが、将来的な顧客満足度に繋がると思い、試行錯誤を続けています。
ECサイトの顧客体験として、重視していることを教えてください。
まずはブランドイメージに即した画面作りですね。一般的なアパレル製品と違い、ジュエリーはそうそう頻繁にお買い上げいただく製品ではありません。年に1度、2度使っていただくユーザーさんも、十分に優良顧客と言えます。ですから、久々にアクセスしたときにサイトの雰囲気が変わってしまっていたということがないようにしなければなりません。一貫したブランドイメージを維持しつつ、同時に、その時々の新作がちゃんと目について、やっぱりこのブランドは良いな、と感心できるような画面づくりを心掛けています。
一方で、ECサービスとしての使いやすさを上げていくために、いまはサイト内の導線の改善に注力しています。特にスマートフォンの限られた表示領域でも、ブランドイメージを維持しつつ、使いやすいサイトにしていかなければなりません。ちょっとした改善から、大きなリニューアルまで、様々な手段を視野にいれて、改善の優先順位を考えています。
複数の接客ツールの中から、提案力向上に繋がるパーソナライズ機能を優先して整備
レコメンドエンジンも、サイト内導線に関わる改善ツールかと思います。どのような経緯で導入されたのでしょうか?
レコメンドエンジンの導入は、営業部にEC運営が移管されてから、優先的に検討をしていました。顧客体験向上のためにチャットツールやMAなども数多く検討したのですが、まずはサイト内での提案力だろうと考えたのです。
ECサイトとしてリニューアルするとなると、店舗と同じようにサイト内を見て回って、選んでいただく仕組みが必要になります。目的買いの商品以外にも「こういうものが欲しかった」と思える商品を見せることができないかと考え、レコメンドエンジンの選定を進めました。
レコメンドエンジンで重視した機能は何でしょうか?
繰り返しになりますが、ジュエリーは高額品で、頻繁に買うものではありません。シーンや用途によっても、都度購入するものが変わってきます。ユーザー属性や購買履歴だけでなく、ユーザー一人ひとりの「いま」のニーズを捉えることが重要です。シルバーエッグの「アイジェント・レコメンダー」は、過去の購買履歴に加え、「いま」の閲覧状況も踏まえて分析し、瞬時に商品をレコメンドする能力があります。ここを買って、導入に踏み切りました。
レコメンドでジュエリーの併せ買いが活性化。サイトの売上を1割押し上げる
レコメンドエンジンの導入で、サイトにどのような効果がありましたか?
レコメンド経由での売上は非常に多いと感じています。月売りの8%から10%がレコメンド経由です。レコメンドエンジンの導入で売上が1割純増した、と考えてよいと思います。
ECのお客様の中には、一度に何点かジュエリーをまとめ買いをしてくださるようなお客様もいらっしゃいます。このようなお客様には、レコメンドによる提案はすごく効果的なようです。また、1点だけ購入されるお客様にも、コスチュームジュエリーのような比較的単価の安いアイテムを併せ買いしていただけるようになりました。10万円台のリング、1万円台のブローチを組み合わせるような買い方ですね。リアル店舗での訴求に近しいものができていると感じます。
今後、ヴァンドーム青山のECサービスはどのような顧客体験の強化に取り組んでいくのでしょうか。
売上拡大は大命題ですが、そのためには、店舗との連携をどう図るかが鍵となってくるかと思います。冒頭申し上げたように、ジュエリーの価値を知っていただくための対面接客は重要です。サイトで商品を見てもらい、店舗でピックアップする仕組みや、逆に店舗で検討してもらい、ECで購入するような、相互送客の機能を作っていきたいです。
また、社内での取り組みとして、ECは実店舗と違う売れ方の仕組みがあるというのを、実店舗中心で動いているスタッフにも知ってもらう必要はあるなと思います。店舗の設備と違い、「レコメンドエンジン」や「CRM・MA」は、実態のないソフトウェアですから、なぜコストがかかるのか、なかなか理解しづらい面があります。しかし実際導入してみると、売上が大きく上積みされるわけです。
ECサイトは、ただあれば売れていく、というものではなく、様々な投資と改善を続けていくことで、成長し続けるものだと感じています。今後、店舗との連携を強めていくうえで、ECシステムの社内理解を促進し、店舗にとってもより意義のある取り組みができていければと考えています。
取材 / 編集: 園田 真悟(シルバーエッグ・テクノロジー)