広告の投資対効果を高める求めるなら、サイト内の改善を! – 「ダンボールワン」
コマース市場の成長に伴って需要が急拡大している商材、それが配送用の「ダンボール」です。ダンボールと梱包材の通販サイトを運営する株式会社ダンボールワンは、DtoC事業を始めた中小の事業者や、CtoCで商品を売買する個人のニーズに応える多様なダンボールアイテムが好評を博し、右肩上がりの成長を続けています。
2020年にはテレビCMも開始し、更に多くの顧客の獲得に成功した同社。しかし広告運用チームは、CMの効果を最大化するためには、CM以外での顧客体験の向上が必要だということに気づかされたと言います。ダンボールワンの取った戦略について、株式会社ダンボールワン マーケティング部 山下 英里香氏にお話しを伺いました。
ダンボール専業のネットショップ
▼段ボールを専門に取り扱うネットショップというのは、とてもユニークなビジネスでいらっしゃいます。そのなかで山下様は、どのような業務に携わってらっしゃいますか?
ダンボールワンはもともと、石川県七尾市の小さなダンボール工場から始まり、2005年に直販のオンラインショップを立ち上げました。現在は、国内シェアNo.1の「梱包材プラットフォーム」として、日本全国のダンボール製造会社、梱包材メーカーと提携し、日本全国に業界最大規模の工場ネットワークを保有。個人のお客様からオフィス需要まで幅広いユーザーに、高品質な段ボール・梱包材を低価格で提供しています。
私は5年前にダンボールワンに入社し、現在は新規顧客獲得のための広告運用を担当しています。また、サイトの効果分析も行っており、レコメンドエンジンなどのツール導入と運用改善にも携わっています。
▼広告運用の一環として、サイト内のレコメンドエンジンも担当されるのでしょうか?
一環というより、広告効果の向上のため不可欠だという認識で行っています。私も当初はネット広告など、サイトへの誘引施策だけに注力していたのですが、2020年にテレビCMを打ったことがきっかけとなり、広告効果を最大化するためには、サイト内のユーザー体験向上も必要だ、との認識が生まれました。
以来、広告によりサイトを訪問されたお客様が、どれだけ購入に至っているか(コンバージョン率)や、いちど購入したお客様が再訪し、長期的にどれだけたくさんご利用いただいているか(LTV)といったところまでをKPIとして分析し、改善策を検討しています。
テレビCMをきっかけに、「サイトに来てもらうだけではダメだ」と気づく
▼テレビCMが、なぜサイト内体験の強化のきっかけになったのでしょう?
テレビCMによる市場認知とサイト流入の効果は、非常に大きなものでした。「ダンボールワン」の指名検索数が4倍以上に増えるなどの目に見える効果がありました。ただ、テレビCMは大きな投資です。それに見合った効果、つまり売上を得られなければなりません。
そのためには、ただCMを見てサイトにアクセスいただくだけではなく、そこからスムーズに買い物をしていただくこと、そしてできれば、リピート購入していただくことが重要です。「広告で、たくさん購入いただける人を呼び込む」には、「たくさん購入できるサイトの仕組みが必要」ということで、サイト内のユーザー体験を向上させる戦略をとり、コンバージョン率やLTVの向上を図ることにしました。一方でCMのターゲットも、定期的な利用で高いLTVが見込める法人顧客に定め、放送時間帯の変更などを行っています。
▼広告とサイト内での顧客体験、両方を最適化していくことで、広告の真の価値が得られるということですね。具体的に、サイトのユーザー体験向上についてどのような戦略をとられたのでしょうか?
当社は段ボールだけで500種類以上の商品があり、かつアパレル商品のように1つ1つの見た目が多様性に富んでいるわけではありません。サイズなどのスペックから、正しい商品を選べるようにするために、それらのスペックに基づいた絞り込み機能などを充実させることが、利便性向上につながります。
しかし、コンバージョンやLTVの観点で考えると、それだけではないということが分かりました。たとえば、新規にサイトに訪れていただいたお客様は、ニーズが曖昧なことも多いです。サイト内を回遊するなかで、レコメンドの提案を通じ “ダンボールにマッチした緩衝材も一緒に買える!”といったことに気づいてもらったほうが、購買モチベーションにつながる可能性もあります。また、長期的な顧客接点の維持のために、CRMやMAの導入も必要だと感じました。
検討の結果、まずランディングページの顧客体験を目に見えるかたちで変えていこうということになり、レコメンドエンジンの導入から着手することになりました。
ターゲット顧客の購買行動を、レコメンドエンジンで変える
▼顧客体験向上の第一歩としてのレコメンドエンジン導入ですが、ツール選定に当たって何を重視されましたか?
なぜMAやCRMより先にレコメンドエンジンの導入を決めたかといえば、運用負荷の問題です。どちらも効果を生み出すには人員の育成などが必要でした。その点、AIに任せられるレコメンドエンジンであれば、短期間で運用負荷もかけずに、顧客満足度を上げられると考えました。
レコメンドエンジンの選定は、展示会での情報収集を通じて行いました。各社に提案いただき、運用負荷のかからない仕組みになっているか、また契約費用がこちらの望む範囲に収まっているかを調査しました。
シルバーエッグ・テクノロジーのアイジェント・レコメンダーを選定したのは、上記の点に加え、当社がベンチマークしていた企業のサービスに採用されていたことです。多様なサービスで採用実績があったので、安心感がありました。PV数ベースで算出いただいた月額費用も、こちらの想定範囲内でした。
▼レコメンド導入で、ユーザー体験にどのような変化があったとお考えですか?
まず数値で言うと、レコメンドを経由したユーザーの一度の購入商品点数は、130%増加というデータが出ています。これは、現在フォーカスしている法人ユーザーさんのサイト活用に大きな影響が出たためと考えています。
法人ユーザーの方々は、リピート買いが中心です。最初に自社製品に合う形状のダンボールを購入すると、それ以降はサイト内のマイページにアクセスし、そこで繰り返し再注文されます。こういった利用法だと、当社がテープや緩衝材なども販売しているということに気づきにくくなってしまいます。
それが、レコメンドで関連するダンボール以外のマッチ商品をマイページに表示できるようになったため、商品認知度が上がり、併せ買いの実現につながりました。この手法は今後も強化して、たとえば商品詳細ページに今見ているダンボールとマッチする緩衝材だけを並べるなど、コンビネーション買いの推進をしていきたいと思っています。
▼レコメンドによるクロスセルは、アパレルECでよく見られる施策ですが、B2Bを実現できているのはユニークですね。今後、どのようなユーザー体験向上施策をお考えですか
今回のレコメンド導入では、学びも多くありました。例えば、適切なレコメンドアイテムを表示させるためには、AIの学習期間が必要になることや(今回は導入後1か月ほどの学習期間を設置)、表示するページの種類に応じて最適なレコメンドアルゴリズムが異なることなどです。
MAなどに比べ運用が簡易だと考えていたレコメンドエンジンでも、より多くの効果を出すためには、導入後も改善を続けていかなければならないと思います。この点では、シルバーエッグのコンサルタントがアイディアや改善提案をいただけるので、心強く思っています。
一方で、もともと主軸としていた検索性能の向上についても、まだまだできることはあると思います。自社で開発している商品検索機能の向上など、バックエンドのシステムとの連携も強化しながら、商品を見つけやすい、買いやすいサイトの実現を目指していきたいです。
(取材 / 編集:園田 真悟)