「老舗×データ」で進めるブランディングと、顧客に寄り添う顧客体験 – 中川政七商店


享保元年(1716年)に創業した中川政七商店は、日本の工芸を基盤に、全国の作り手と協業して生活雑貨を製造・販売する企業です。現在、売上高は86億円を超え、先進的なデジタルトランスフォーメーション(DX)への投資でも注目される、業界のトップランナーとして知られています。同社は「日本の工芸を元気にする!」というビジョンのもと、各地の工芸メーカーとバイヤーをつなぐ合同展示会の運営やコンサルティング事業にも注力し、工芸産業の活性化に取り組んでいます。

 

中川政七商店の直営ECサイトは、商品の販売にとどまらず、ものづくりの背景を伝えるメディアとしての機能や工芸メーカーのモールサイトとしての機能も併せ持ち、2019年のリニューアル以降大きく成長しています。工芸という強いストーリーをもつ商品をネット上で販売していくために求められるポリシーとは何か? また、そこから導き出されるマーケティング施策とはなにか? 社内のデジタル施策を広くご担当される、コミュニケーションデザイン室 中田勇樹様にお話を伺いました。

 

 

INDEX
工芸を扱うからこそ求められる、データの可視化
ECサイトでのブランディングとマーケティング
レコメンドエンジンに求められる機能と価値
ブランドの価値を可視化し、生産性を上げていく


工芸を扱うからこそ求められる、データの可視化

▼横文字看板の多いECの世界で、工芸を中心とした生活雑貨の販売で大きな成果を出し続けている中川政七商店様は、一種独特な存在感があります。デジタルの世界で工芸を売るために求められることとは何でしょうか?

 

工芸とは、用途に合わせた機能性だけでなく、造形やものづくり背景といった使い手の感性に響く要素が大きく求められる商品です。だからこそ、その販売に関しては徹底的なデータの可視化が重要なのではないかと思っています。

 

私たち中川政七商店は、約300年前、奈良晒と呼ばれる麻織物の問屋として創業しました。時代に応じて様々な改革を行い、現在は日本の工芸をベースとした生活雑貨の製造、販売を中心に行っています。2000年代からは直営店出店を加速し、ブランドの世界観を直接お客様に届けるSPA業態(製造小売業)を展開しています。

 

直営店を運営する中で、2007年ごろから、データマネジメントにも取り組み始めました。当初は来店したお客様に会員登録をしてもらい、紙で管理するだけの簡素なものでしたが、 2020年には改めてブランディングのデータ可視化プロジェクトを再始動し、ブランド施策の方向性や結果を可視化するためのCRMツール「MONJU 」の開発に取り組んでいます。

 

 

▼データの可視化に注力される企業は多いですが、販売現場のマーケティングだけでなく、ブランド施策を視野に入れて取り組まれるのは珍しいかと思います

 

それは、当社がブランディングに重きを置いている会社だからです。当社では店頭での接客を「接心好感」と表現しています。造語なのですが、お客様の心に接し、心地よいブランド体験を提供することで、商品・お店・ブランド・会社を好きになっていただくことを意味しています。デジタル上でも店頭同様、心に接して好感を得ることで、企業・ブランドへの理解を深化させることこそ重要だと考えているのです。

 

 

ECサイトでのブランディングとマーケティング

▼中川政七商店のECサイトには、品質の高い商品写真やブランドを想起するイメージフォトが配され、多くの「読み物」があります。それらが、ブランドを作っていくための施策ということでしょうか。

 

そうですね。ブランドはお客様の頭の中にできあがるイメージのことだと考えているので、そのためには実店舗・ECを問わず、すべてのタッチポイントをコントロールして、あるべきイメージを作っていく総力戦が必要です。オンラインで展開するコンテンツにも、もちろん力をいれています。

 

ECサイトでお客様に伝えるべきことは、商品の機能やスペックだけではありません。お客様にものづくりの背景を伝えるとともに、商品を日常の中でどう使えばよいのかを伝え、共感してもらうことが重要です。そのためのコンテンツをさまざまな視点で作成し、掲載しています。どの記事も、お客様に商品を長く使っていただくことを想定して制作していますが、スタッフが商品を実際に使って紹介する「私の好きなもの」は特に好評です。

 

▲中川政七商店 コミュニケーションデザイン室 中田勇樹様

 

 

▼ECサイト上での一般的なマーケティング施策は行われなかったのでしょうか?

 

もちろん併用しています 。実際、当社サイトではさまざまなマーケティングツールを導入しています。ただ、それによってどんな体験を作るかがポイントになってきます。ブランディングを大事にしている売り場だからこそ、体験をつくるコミュニケーションは、お客様の視点を意識して調整しています。

 

例えば、誕生日のクーポンです。割引クーポンはよくある施策ですが、当社 ではそれを誕生月に何度でも使えるようにしています。クーポンを効率良く使うには、商品をまとめて購入するのがベストですが、弊社は毎週のように新作商品が発売され、かつ在庫数が限られているので、月末にまとめて買い物しようとすると欲しい商品が売り切れになっている可能性があります。

 

そのため、お客様が「いま欲しい」と思ったときに気兼ねなくクーポンを使えるように、誕生日月に何度でも使えるかたちにしています。クーポンは店舗でも利用可能にしたり、LINEでの施策にも使ったりと、お客様とのさまざまな接点で効果を発揮しています。

 

また、レコメンドエンジンの活用も重要です。 店頭での購入の場合、自分好みの「隠れた逸品」と出会った喜び、いわゆるセレンディピティが重要になります。しかし、商品のバリエーションが多い当社の場合、大きな店舗であってもすべてを見せることができず、すべての商品をお客様に見ていただけない という課題があります。

 

そこで、面積の問題が無いECでは、精度の高いシルバーエッグ社のアイジェント・レコメンダーを採用し、お客様が欲しいと思える商品との出会いを設計しています。

 

 

レコメンドに求められる機能と価値

▼顧客起点でのサイト体験を作るうえで、レコメンドエンジンに求めた機能とはなんでしょうか?

 

AIによるレコメンドの精度はもちろんですが、重要なのはリアルタイム性です。在庫を保有している商品が目まぐるしく変わるので、いま何が売れているのか、どんな買われ方をしているのかを分析し、即座にレコメンド内容に反映できるリアルタイム性がなければ、お客様と「隠れた逸品」との出会いは作れないと考えました。

 

また、記事などのコンテンツが 多いサイトですから、商品とともにコンテンツのレコメンドができることも重視しました。

 

一般にECサイトのコンテンツマーケティングでは、商品が終売となると、その商品を紹介する記事もサイトから削除されます。しかし、当社はコンテンツを継続して出し続けるようにしています。終売してしまった商品の使い方記事が、後から別の似た商品の使い方で役に立つこともあるかもしれません。また、商品の産地や作り手を知っていただくきっかけとしても 、過去の情報が残り続けることが重要です。ですから、コンテンツページでもレコメンド表示を行い、記事の内容と関連する最新の商品もおすすめできるようにしています。

 

 

▲オンラインショップのコンテンツページには、商品と読みもののレコメンドが併設されている

 

 

▼アイジェント・レコメンダーを導入して、どのような効果があったのでしょうか?

 

サイト内のさまざまな箇所で、パーソナライズされた商品の提案ができていると感じています。特に商品カテゴリーページでのレコメンドは効果が高いと考えています。カテゴリーページはお客様が購入の意図を持ってアクセスするページですので、そのファーストビューが単なる売れ筋順の製品表示でなく、嗜好にあった製品表示になっていると、顧客体験は明らかに良くなります。この施策は、UIを含め上手くいっていると思います。

 

実は、AIベースのレコメンドエンジン導入に関して、いくつか懸念もありました。商品の販売初期に精度の高いレコメンドができない「コールドスタート問題」や、在庫数が少ない商品は関連する商品のレコメンドが出にくいといった問題です。ただ、実際アイジェント・レコメンダーを稼働させたところ、初期の学習で十分な精度が出せることがわかりました。これには安心しました。

 

 

ブランドの価値を可視化し、生産性を上げていく

▼今後、中川政七商店のECサイトをどのように進化させていきますか?

 

重視しているブランディングの可視化は、ツールである「MONJU 」の開発が進み、中間地点に入ったかと思います。「MONJU」では、ユーザー行動データのをもとにお客様をいくつかのクラスターに分けています。クラスターによって、お客様が中川政七商店をどのように使っているかや、次にどのような商品を求めているかを、ある程度予測できるようになりました。

 

また、クラスターとアンケートを組み合わせてお客様の嗜好性や価値観を理解し、商品をどのように伝えるかを明らかにする取り組みを現在進行中です。分析したデータの活用も進んでおり、お客様とのコミュニケーションの支援をしたり、商品開発の指標にもなりつつあります。

 

こういったデータも、マーケティングエンジンとしてのAIも、私たち中川政七商店のスタッフの1人あたりの生産性を上げていくために必要な道具だと考えています。限られた人数でどれだけ生産性を上げていけるかが、大きな課題となってきます。レコメンドのようなマーケティングツールも、いまのように単体で使うだけではなく、複数の機能を統合した運用ができるようになっていけばよいと考えています。

 

(編集:園田真悟)

 

 

 

▼AI搭載レコメンドエンジンの機能について詳しく知るにはこちら!▼

アイジェント・レコメンダー紹介資料リンク

 

 



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