ロングテール商品が売れ始めた! BtoB ECサイト成功の鍵はユーザービリティと発見的レコメンド – フローバル「配管部品.com」
フローバル株式会社は、配管部品と関連する設備機器を取り扱う専門商社です。製造業向けの大規模配管ソリューションのほか、工事業向けの配管機材の販売も手掛けており、近年ではグローバルなビジネス展開でもそのプレゼンスを強化しています。
同社では特に工事業に携わる小規模事業者様・プロユーザー様向けに、BtoB ECサイトの運営にも力を入れており、質の高い製品の提供で業界から高い評価を受けています。2008年に開設されたBtoB ECサイト『配管部品.com』の成功の秘訣について、フローバル株式会社 ネット通販事業部 部長 笹渕様にお話しを伺いました。
▲新機能、カテゴリー検索、おすすめ品などが並ぶ『配管部品.com』トップページ
【INDEX】
・顧客層を知り、使いやすさを極める – BtoB ECだからこそ必要なデザイン改善
・商品を選んでもらうために必要な、検索エンジン・カテゴリー設定・レコメンド
・見やすさ、買いやすさに磨きをかけ、より使い続けられるBtoB ECサイトを目指す
顧客層を知り、使いやすさを極める – BtoB ECだからこそ必要なデザイン改善
▼配管部品.comのビジネスモデルについて教えてください
フローバル株式会社は、100年の歴史を持つ配管と設備の専門企業です。もともと当社のメイン事業は、大規模な工場などの設備などで必要となる配管機材のソリューション販売にあったのですが、次第に住宅設備などに携わる工事業者様からも引き合いをいただくようになりました。いわゆる「ひとり親方」など、規模の小さい事業者様も多く、当社の営業部ではニーズを拾いきれないという課題があったため、2008年という比較的早い段階でネット通販に乗り出しました。
工事用資材等を取りそろえて販売するBtoB ECサービスは国内でもいくつかありますが、配管部品.comの強みは、その名の通り「配管」というカテゴリーでの専門性にあります。配管関連の商品を50万点以上取りそろえており、多様な現場で求められる商品をいち早く届けられるのが特長です。ユーザーの皆様からは、その商品力と、サイトの見やすさ、使いやすさなどを総合的に評価いただいています。業界での浸透度はかなり高いのではないかと思います。
▼工事業界というと、事業者様の高年齢化がよく話題になります。ネットショップを使われるのは、業界でもどのような方々なのでしょうか?
業界で働く方々の年齢は確実に上がってきています。当サイトのユーザー様は、60代以上の方々が大多数です。これは、水道、ガス、空調の職人さんの平均年齢と全く同じです。こういった年齢層の方々が、ECを使いこなすようになってきた、というのがここ10年の大きな変化ではないかと思います。例えば、決済方式も昔は掛け売り・代引きがメインでしたが、いまはクレジットカード決済が普通です。
▼ECを快適に使ってもらうために工夫しているポイントがあれば教えてください。
BtoB ECというと、昔はあまりデザインにこだわらず、「とにかく買えればよい」というものが多かったかと思います。しかし、BtoC ECビジネスが一般化し、その成功事例などが知られるようになると、BtoB ECの世界でも「サイトの使いやすさ」を改善して売上を向上しようという機運が高まってきました。当社も2018年にサイトデザインのリニューアルを行いました。特に、ユーザーの皆様の利用環境を意識し、文字の見やすさを重視しました。視認性の良いフォントを採用し、文字サイズ、要素同士の間隔、色の使い方など、細部までこだわってチューニングを施しました。サイトが非常に見やすくなったという評価をいただくようになり、実際コンバージョン率は大きく上昇しています。
商品を選んでもらうために必要な、検索エンジン・カテゴリー設定・レコメンド
▼デザイン面とともに気になるのが、商品点数の多さです。目的の商品を見つけてもらうために工夫している点を教えてください。
おっしゃる通り、50万点以上の専門性の高い商品を取りそろえていると、ユーザー様の商品探しの負担は高くなります。BtoB ECでは、ユーザー様はウィンドウショッピングのように商品探索を楽しむということはありません。いかに目的の商品を素早く見つけられるかが、顧客満足度に繋がります。
まず重要なのが、サイト内検索エンジンの機能強化です。専門用語が多い業界ですので、検索ワードの揺らぎなどを捉えて目的のものが検索結果に上がるようにすることが重要です。複数回のシステム変更を経て、今では、専門用語で検索しても商品がヒットしないといったことはなくなりました。
次に、商品カテゴリー分類の適正化です。ニッチな商品を幅広く取りそろえるBtoBビジネスでは、分かりやすいカテゴリー設定が重要です。ある時点で良いと思ったカテゴリーも、時が経つとズレてきたり、カテゴリーの名称自体が変わったりすることがあります。カテゴリーの変更はSEOにマイナスの効果があると言われていますが、当サイトではユーザー様の利便性を優先し、大規模なカテゴリー変更を過去何度か実施しています。
最後に、レコメンド機能です。サイト内検索エンジンやカテゴリー分けの適正化は、ユーザー様が欲しいものを選び出すためには役立ちますが、知らないものを手に取ってもらうには十分ではありません。ある目的に対して別のオプションとなる商品や、目的の商品と組み合わせて使える商品を見つけてもらうには、精度の高いレコメンドエンジンが重要です。
▲商品ページ下部には比較対象や多様なレコメンド商品が並ぶ
▼BtoB ECサイトで使うために重視している、レコメンドエンジンの機能とは何ですか?
先ほどもお話しした通り、BtoB ECのユーザー様は、自分の仕事のためにサイトにアクセスしているので、あれこれ迷わずに必要なものがすぐ見つかるという体験が重要です。同じユーザー様でも、アクセスするごとに必要なものは変化しますから、その時々のニーズに合わせて最適な商品をレコメンドする、リアルタイム性が重要です。
販売の統計データを分析し、「あの商品にはこの商品をレコメンド」という組み合わせをあらかじめ算出するレコメンドエンジンは多くありますが、これだと、売れ筋商品をひたすら提案するだけになりがちで、「無駄なものをレコメンドしている」と感じる人が出るかもしれません。当社で採用したレコメンドエンジン「アイジェント・レコメンダー」は、ユーザー様がアクセスするごとに、その場でどんな商品を見ているか、その直前に何を見ていたかという情報をリアルタイムで計算ロジックに反映し、極力「いまのニーズ」にあったレコメンドが出せるようになっています。
また、レコメンド機能の自動化も重要なポイントです。以前は当社サイトでも、新商品をデータベースに登録する際に「関連商品A, B, C…」といった具合におすすめ商品を手動登録していましたが、商品点数が増えてくると登録の手間も増えますし、レコメンド内容がユーザーニーズに合わない場合や、終売によるリンク切れが発生して顧客体験を損なうリスクもでてきます。この点でも、AIによって自動的にユーザーニーズを理解し、都度レコメンド商品を選定するシステムが優れていると思います。
▼レコメンドエンジンの導入によって、売上やユーザーの皆様の行動にどのような変化がでたのでしょうか?
現在、シルバーエッグのレコメンドエンジンを導入して約半年という状況ですが、全体の売上のうち約10%程度が、レコメンド経由で発生しています。また、ユーザー様が一度に購入するアイテム数は、レコメンドをクリックしないユーザー様の場合に比べ、レコメンドをクリックするユーザー様では約2倍です。当社の重視する、1セッションあたりの購入点数の向上という目標に対し、成果を出していると感じています。
また、なにより評価しているのが、レコメンド導入後、これまで買われていなかった商品の販売数が活性化してきている、ということです。よく8:2の法則と言われますが、当社サイトでも、在庫している商品の多くがユーザー様の目に触れず、ニーズがあるのに売れていないという状況がありました。AIレコメンドの学習によって、こういったニッチ商品のニーズの掘り起こしが行われ、必要なユーザー様に届くようになってきたと感じています。
見やすさ、買いやすさに磨きをかけ、より使い続けられるBtoB ECサイトを目指す
▼配管部品.comでは、今後どのような施策で利便性を向上させていくのでしょうか?
実は、BtoC ECで使われているようなWebマーケティング施策は、当サイトでも一通り導入が済んでいます。MAツールを使ったメールコミュニケーションは、2015年の段階で実装し、細かなユーザーニーズに応じたメール配信を行っています。また、サイト上でのポップアップ機能などを備えた接客ツールも運用しています。ただ、接客ツールなどを運用するためには、どうしてもマンパワーが必要です。今後はツールの集約・連携などで、より効率のよい運用を実現し、顧客体験を高めていきたいと考えています。
また、AIへの期待もあります。レコメンドエンジンや検索エンジンには既にAI機能が使われており、精度向上と効率化の両方で効果を実感していますが、今後は生成AIなどの技術を使って、より訴求力のある商品情報テキストの作成などが実現できればうれしいですね。もちろん、生成AIにはハルシネーション*などのリスクもあります。どう使いこなせばよりお客様のためになるのか、探求を深めていかなければならないと思っています。
*ハルシネーション(幻覚・幻想):生成AI技術を買ったチャット・文章生成ツールが、事実に反する文章をあたかも事実のように提示してしまうこと。
(編集:園田真悟)
▼AI搭載レコメンドエンジンの機能について詳しく知るにはこちら!▼