B2B ECの巨人がこだわる、大量在庫の中から商品を「見つける」仕組み – 理化学機器販売「AXEL」
理化学機器、産業機器、病院・介護用品の総合卸として知られるアズワン株式会社は、卸でありながらメーカ―機能と小売機能化を備える独自のビジネスモデルで、仕入先企業、販売店、ユーザーをつなぐ流通ビジネスを展開しています。
理化学の研究・開発に携わる人間なら見たことがない人はいないと言われる分厚い商品カタログで知られる同社は、ECの世界でも先進的な取り組みを行ってきました。サイトには紙媒体を大きく超える900万点もの商品が掲載され、必要に応じて直ちに購入できる仕組みが整えられています。
日本のEC界における隠れた巨人とも言えるアズワンのB2B ECサイト「AXEL(アクセル)」について、B2Bビジネスならではの流通の仕組みや、検索、レコメンドにこだわった顧客体験の創出について、アズワン Eコマース本部 UXデザイン部部長 中野裕也様、同AXEL企画グループ 米増恭平様、DX推進部 太田草子様にお話しを伺いました。
【INDEX】
・EC化率26%! 巨大B2B ECサイトAXELとは
・検索とレコメンドで、顧客の回遊性を担保
・マーケティングツールの売上貢献度が見えない? B2Bならではの事情
・カタログ時代のメリットを更に活かし、より使いやすいサイトに
EC化率26%! 巨大B2B ECサイトAXELとは
▼アズワンは専門性のある理化学用品の流通で知られています。ユーザーは大学や医療機関、企業の研究部門となると思うのですが、ECに進出するきっかけはどこにあったのでしょう?
中野:アズワンはそもそも実験機器の販売を行っていた商社です。40年前に医療分野に、最近では食品事業分野などにも力を入れていますが、事業ドメインごとに印刷した分厚いカタログを、1万3千拠点の販売店を介してユーザーに配布し、必要に応じて注文いただく「カタログショッパー」と呼ばれるビジネスモデルでした。
カタログの分厚さは有名で、7万点以上の商品が掲載されたカタログは重さ3.6kgにもなります。しかし、それでも紙面の限界があり、3千社にのぼるサプライヤの商品すべてを載せることはできません。また、検索性も乏しく、印刷の半年前に内容を決めてしまうと価格変更にも対応できないといった、紙であるがゆえの機会損失という課題もありました。
アズワンとしても、せっかくお取引しているサプライヤの商品のすべてを売ることができないというのは、歯がゆい状況でした。そこで、従来のカタログでできなかったことをやろう、売れる物はぜんぶ売れるサイトを作ろうという発想で、ECサイトAXELをオープンしました。
▼AXELのサービスの強みを教えてください。
米増:必要なものが何でも揃うことです。サイト立ち上げ当初は、100万点の品揃えのサイトを作ろうという目標だったのですが、その数字は早々にクリアし、開始8年目の現在は900万点を超えています。次の目標は1000万点です。
単に商品点数が多いだけでなく、良いものを買える仕組みを整えていることも強みです。カタログ時代から培ってきた商品に対する目利きの力を活かし、分野ごとに特集を組むなどしてユーザーに提案しています。また、AXELのカスタマー相談センターには元研究者や元医療従事者などの専門知識保有者が常駐しており、ユーザーからの相談を受けています。そこでのノウハウが、また商品の品揃えにフィードバックされたりしています。
中野:ほかにも理化学業界の特殊性を重視し、ECでありながら機器の販売だけではなく、レンタルや中古品の取り扱い、修理や校正、衛生管理のコンサルティングなど、サービスやサポート面の充実を図っている点も特長と言えるでしょう。おかげさまで、アズワンの売上に占めるECの比率は大きく伸び、現在は26%を超えています。ビジネス全体として、この10年足らずでDXが大きく進展したと考えています。
▲アズワン AXEL運用に携わる 中野様(右)、米増様(左)、太田様(中央)
検索とレコメンドで、顧客の回遊性を担保
▼商品点数がここまで多くなると、ユーザーは商品を見つけるのが大変になるのではないでしょうか?
中野:そういった課題も認識しています。ユーザーの多くは検索エンジンから商品ページに直接アクセスしますが、そこから更に他の商品を探すための導線を用意しなければなりません。そのためサイト内検索機能には、当初から力を入れてきました。
AXELのEC基盤は国内ベンダーのパッケージを大規模向けにカスタマイズしたものですが、商品の検索に関しては専門ベンダーの高速検索プラットフォームを導入し、これもかなりカスタマイズして使っています。
太田:ただ、検索だけでは、オーガニックで流入したユーザーの直帰率の高さを完全に解消できるわけではありません。商品詳細ページを見て、“何か違うな”と感じたユーザーが、本当に欲しいものに短いステップで辿り着くための仕組みとして、レコメンドエンジンも導入しました。
▼レコメンドエンジンの導入にあたり、特に重視した機能はありますか?
太田:機能云々の前に、まずAXELにレコメンドエンジンが必要かどうかという議論がありました。目的買いのユーザーが多いのだから、回遊性を上げるには検索があれば十分という意見もあったのです。しかし、「レコメンドのないECサイトは使いづらい」という声もあり、5社ほど機能比較をしたうえで、シルバーエッグ・テクノロジーの「アイジェント・レコメンダー」の導入を決定しました。
米増:採用に当たって重視したのは、運用の手軽さです。なにしろ商品点数が多いですから、事前に「あの商品にはこの商品をレコメンド」といった設定を自力でやるには限界があります。続々入荷する商品に対しても自動的に関連するレコメンドを決めて表示できる、AIベースの商品を選びました。
太田:アイジェント・レコメンダーは、AIツールでありながら仕様が分かりやすいという点も評価しています。サイトのトップページや商品詳細ページなど、ページの目的によって適したレコメンドロジックも違うのですが、何が適しているのか、コンサルタントと相談して決めることができました。たとえば、トップページでは購買履歴に基づくAIレコメンドを敢えて外し、商品カテゴリーごとに売上のリアルタイムランキング上位を掲示するようにしています。
中野:検索とレコメンドの相互補完で、サイトの回遊性はこの8年でかなり向上してきました。また、MAツールと組み合わせた活用も進めています。スクラッチで機能開発するのではなく、要所要所で最適なツールを組み合わせて使う運用が、当社では効果を上げています。
マーケティングツールの売上貢献度が見えない? B2Bならではの事情
▼レコメンドの成果についてですが、売上への貢献度が可視化できていないとうかがいました。
中野:これはECサイトであるAXELが、既存のカタログ×販売店網のビジネスモデルを補完・強化する役割を担っている点にあります。ユーザーはAXELに会員登録をして発注することもできますが、AXELで見つけた商品を普段お付き合いのある馴染みの販売店に発注し、今まで通りその販売店で決済することもできるわけです。
アズワンとしても、商品の配送やサポートは販売店を頼ることができ、迅速な商品の流通や、効率的な代金回収が実現できています。
結果的に、ECサイトであるAXELと既存の販売店ビジネスモデルがうまくシナジーを発揮することができました。ですが、この場合はサイト上でのコンバージョンは計測できないため、レコメンドなどの販促ツールの貢献度は可視化することが難しくなっているのも事実です。
米増:AXELを立ち上げる際に、もしカタログ時代の販売店モデルを廃し、ECによる販売のみとしてしまったら、他の専門用品ECサイトや大手モールとの差別化要素がなくなり、生き延びられなかったでしょう。確かに、ユーザーの売上動向に関する一貫したデータトラッキングができないというデメリットもありますが、些細なことです。それ以上に、これまで培ってきたアズワン、サプライヤ、販売店、ユーザーの強固なエコシステムを維持することが、長期的なビジネスの強みになっています。
太田:レコメンド機能に関しては、導入によってサイト内の回遊性が10%向上したというデータも出ています。売上への貢献度も相応にあると考えています。期待以上の働きをしてくれています。
カタログ時代のメリットを更に活かし、より使いやすいサイトに
▼パンデミックを経て、ECのニーズは大きく加速しました。今後のAXELの成長のため、どんなことに取り組んでいきますか?
米増:確かに、コロナ禍では当社の衛生資材や医療備品のニーズが大きく増え、お客様の多様な要望、より迅速なニーズに応えなければならなくなりました。3年前からAXELではWebでの表示に加え、デジタルカタログでの表示を始めました。在宅勤務の増えたユーザーに、自宅からでも使い慣れたカタログオーダーを行ってもらえるようになりました。
一覧性や比較のしやすさなど、紙には紙の良さがあります。そういったものを切り捨てず、デジタル技術と融合させて、ユーザビリティを上げていきたいと思います。
中野:冒頭で述べた通り、私たちの扱う商品は、おそらく1年と経たないうちに1千万点を超えます。国内外で多様な研究開発に取り組むユーザーたちのために、1千万点の中から最適な商品を選んでもらえる仕組みを整えていかなければなりません。競合サイトのマーケターともよく話すのですが、そのためには「検索と推薦」が鍵だと思っています。今後は、Web上でよりインタラクティブに商品を選んでいただけるような仕組みを整え、ユーザビリティを磨いていきたいと考えています。
(編集:園田 真悟)
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