店舗顧客のEC利用が激増! AIレコメンドの新たな使い方 – 「ラコステ」


ワニのロゴで長年日本人にも親しまれているLACOSTE(ラコステ)は、ブランドのアイコンであるポロシャツをはじめ、メンズ、ウィメンズ、シューズ、レザーグッズなどトータルシルエットを取り揃えた店舗を全国に展開しています。

 

パンデミックによる行動制限が続き、消費者の“来店”へのモチベーションが低下するなか、ラコステはどのように顧客の心を掴もうとしているのでしょうか? ラコステジャパン マーケティング部 CRMマネージャー 青野 功治様にお話を伺いました。

 

【INDEX】

・ラコステジャパンの顧客活性化戦略
・パンデミックが引き起こす、店舗運営のネガティブスパイラル
・店舗の顧客データをAIで分析し、オンラインショップへの来店を促す
・実店舗のスタッフもAIのデータを利用し、顧客満足度を上げてゆく

 


ラコステジャパンの顧客活性化戦略

▼青野様が担当する、ラコステジャパンの顧客コミュニケーション戦略についてお教えください。

ラコステジャパンでは、ラコステとAIGLE(エーグル)の両ブランドにて「チームラコステ」「エーグルクラブ」というお客様向け会員サービスを運営しています。この会員の皆様に向けた、メールを中核としたプロモーションとコミュニケーションを担当しています。

 

私たちが継続的にフォーカスしているのは、リピーター、つまり2回目以降の再来店をいかにつくるかという点です。通販用語でいえばF2転換率の向上ですね。多くのアパレル企業、小売店の共通課題ではないかと思いますが、来店するお客様の8割は初回購入です。これを、どうやって2回、3回と購入していただけるようにしていくのか、継続的に施策を動かしています。

 

顧客コミュニケーションの中核となるメール施策は、1年間のシナリオを設計して取り組んでいます。店舗でご購入いただいたお客様を休眠顧客化する前にアクティベートさせることを目標に、新規会員の方へのウェルカムプログラム、毎月の新商品ニュースレター、キャンペーン配信や、個人のニーズに合わせたパーソナライズドメールなどを組み合わせています。

 

▼マーケティングツールは何をご利用されていますか?

ラコステがワールドワイドで利用しているCRM・MAのサービスを、ジャパンでも導入しています。顧客再訪に関するKPIはワールドワイドで設定されていますので、報告や分析がしやすいメリットがあります。

 

一方で、メールのコンテンツのような顧客が直接接する部分に関しては、今回採用した「アイジェント・レコメンダー」/「レコガゾウ」のように、国内独自の物も使っています。また、モバイルアプリでのサービスも先日国内でリリースしました。

 

店舗顧客のパーソナライズ戦略について語る青野功治氏

ラコステジャパン 青野 功治氏

 

パンデミックが引き起こす、店舗運営のネガティブスパイラル

▼リアル店舗への顧客誘導は、このパンデミックで一層厳しくなったのではないでしょうか?

はい。一般論として、アパレル業界の店舗運営は、単に行動制限で顧客の出足が遠のく以上の、中長期的な負の影響が出ていると考えています。

 

店舗では、リピート買いをしてくれるお得意様、VIP顧客を中心に、1対1の接客を重ねることで、スタッフの接客技術が向上し、また多くのお得意様を作ってゆくことができました。コロナ禍が長引き、全体の来店者数も、お得意様の来店頻度も減ったことから、企業によっては離職するスタッフも増え、代わりのスタッフの接客練度も上げられないという状況になっています。

 

こうなってしまうと、いざ人流が戻ってきても、お客様に満足をいただける接客サービスが提供できず、再びお得意様を作ってゆくこと自体が難しくなってしまいます。この解消は、業界全体の課題ではないでしょうか?

 

▼一方で、消費者のEC利用率は上がっています

それはそうですが、顧客コミュニケーションに責任を持つ立場としては、消費者が店舗の利用をやめてECへと移行する際に、それまでの習慣が断絶し、別ブランドへと移ってしまうリスクは看過できません。

 

もはや、店舗とECで客を取り合うという時代でもありません。お客様が実店舗に再訪できないのなら、代わりにデジタルの店舗に来てもらうような施策が必要だと考えました。

 

 

店舗の顧客データをAIで分析し、オンラインショップへの来店を促す

▼リアルかデジタルを問わない再来店促進戦略に、レコメンドツールはどう役立っているのでしょう?

ラコステジャパンでは、当初ECサイトでシルバーエッグ社の「アイジェント・レコメンダー」と、メールレコメンドサービスの「レコガゾウ」を利用していましたが、オプションサービスである「バッチレコメンド / POS連携オプション」を加え、EC以外の店舗会員にもそのサービス範囲を広げました。

 

この仕組みで、チームラコステに登録いただいたお客様の実店舗での販売履歴をECのレコメンドの仕組みに載せて、AIに分析させ、「次に何を買う確率が高いか」というデータを出すことができます。それを、会員のお客様1人ひとりに任意のタイミングで「おすすめ品」として紹介し、ワンクリックでECサイトの商品ページへとアクセスできるようにしています。

 

例えば、いままで単に会員の皆さん全員に流していた「セールの案内」のメールが、この仕組みを導入したことで「あなたにぴったりの商品が、セールで買えますよ!」という、よりお客様個人に寄り添った案内になりました。

 

▼店舗会員へのレコメンドで、具体的な成功例があれば教えてください。

パーソナライズドメールは、顧客のブランド感度が高いタイミングでやると効果が高いと考え、通常のバルク配信ではなく、購入いただいたお客様へのお礼メールに集中的にレコメンドアイテムを掲載する施策を立ち上げました。

 

この手法では、お客様が購入したての、いままさに着ている服とフィットする商品をAIがレコメンドします。自然とクリック率は上がり、ECへの誘導が目に見えて増えるようになりました。

 

特に1月のファイナルセールのタイミングでは、多くのお客様がチームラコステの会員になっていただきましたが、その後パーソナライズドメールを送ったところ、メール経由での店舗会員のEC利用者数が跳ね上がり、通常の新規EC利用者数を遥かに上回るという、大きな成果を残しています。

 

率直に言って、当社のEC化率はさほど高い方ではありません。ECのお客様だけにレコメンドアイテムを紹介していても、全体的な売上への貢献はまだまだ、という状況でした。しかし、店舗会員へのレコメンドを始めたことで、CRMのデータ分析でも明確な成果を示すことができるようになりました。

 

データ収集・提案の範囲を店舗会員にまで広げることで高い効果がられる

店舗会員が多ければ多いほど、レコメンドのメリットも拡大する

 

実店舗のスタッフもAIのデータを利用し、顧客満足度を上げてゆく

▼実店舗のお客様へのレコメンドについて、今後の活用方針をお聞かせください

実は、既に取り組みを始めています。バッチで出力されたVIP顧客のレコメンド内容を、店舗のスタッフにも共有し、ご来店時の接客にスタッフから案内するようにしています。スタッフが入社したばかりで練度が低い状態でも、AIの選んだレコメンドアイテムを手がかりに、接客を開始することができます。

 

また、会員向けモバイルアプリでのレコメンド表示も、今後考えてゆくことになると思います。レコメンドの長所は、単に商品をプッシュするのではなく、お客様に商品に気づいてもらえるところにあると思います。この体験をもっと多くのお客様にしていただき、ラコステへの愛着を持っていただければと思っています。

 

 

AIレコメンドの活用構想を語るラコステ青野氏

 

 

(取材 / 編集:園田 真悟)

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