高額・一点もの・反物買い……独特の「和装」業界にも求められた、レコメンドによるCX改善 – 「京都きもの市場」
株式会社京都きもの市場が運営する「京都きもの市場」は、日本最大級の「着物」インターネット通販サイトです。価格帯も販売方法も購入プロセスも、一般的なアパレルとは異なる和装の世界で、同社のサイトが心掛けたのは、顧客の信頼を得るための「当たり前の購入体験」でした。いまやEC化率20%を超える同社のビジネスの特長と、レコメンドエンジンによる接客の効果について、株式会社京都きもの市場 斉藤 一真氏にお話を伺いました。
【INDEX】
・顧客からの信頼を重んじ、成長した呉服EC
・当たり前の機能と、独自性の組み合わせ
・お客様の「押し売りされたくない」という気持ちに配慮する
顧客からの信頼を重んじ、成長した呉服EC
▼アパレル業界のEC化は進んでいますが、「着物」は、一種独特かと思います。「京都きもの市場」はどのような形態でECに取り組んでいるのでしょうか?
私たちのビジネスは、展示会販売、店舗、ECの3事業に分かれています。やはり対面販売が強く、それぞれの規模感をざっくり言えば、展示会での販売が50%、残りの25%ずつを店舗とECが担っています。
EC進出の時期が早かったこともあり、ECの事業に占める割合は高い方だとは思いますが、それでも、デジタルだけでは呉服の良さは伝えきれないと思っています。反物の質感の提案もそうですし、服と帯のように、いろいろと組み合わせを試してセットで買いたいというニーズに応じるには、リアルで商品を見られる場が必要です。
呉服商品は比較的高額です。お客様は店舗や展示会とECを併用して商品を見定めることもありますし、ECの中だけでも、商品選びにじっくりと時間をかける傾向があります。
▼いまEC業界ではOMO戦略がしきりに語られていますが、呉服の世界ではECとリアルの併用は当たり前のことだったのですね。そんな中で、ECサイトはどのような方針で運営されているのでしょう。
信頼の積み上げが重要だと考えています。私たちは、他社に先駆けてECにチャレンジしてきたわけですが、売上や市場認知の拡大の柱となったのが、リピート利用していただくお得意様の存在でした。成長の過程でリピーターの皆さんの信頼を得るため、品ぞろえの豊富さや納得できる価格での提案、欲しいものがすぐ見つかり、安心して買えるシステムの構築といった施策を重ねてきました。
呉服販売ならではの購入方法として、「反物」での購入があります。サイトで着物ではなく生地を購入いただき、それをいったんお客様にお届けします。物の良さに納得いただいたうえで再び当社に返送いただき、着物に仕立てることができます。もちろん、当社以外のところで着物に仕立てていただいても構いません。また、生地が気に入らなければ返品も可能です。
高額な買物ですから、購入プロセスが長くても納得して買っていただくことが重要です。そのために、ECの機能だけでなく電話でのサポート体制も拡充させています。
当たり前の機能と、独自性の組み合わせ
▼ECサイトには、具体的にどのような機能が求められたのでしょうか?
まず分かりやすさです。先に説明したとおりECでの呉服購入プロセスは一般のアパレルより複雑です。また、画像だけでは素材や仕立ての良さは伝わりません。比較的高齢のお客様にも使っていただくサイトですから、豊富で分かりやすい商品説明や、ストレスのない購入導線がとても重要です。
例えば、商品検索の強化や、レコメンドエンジンの導入も、ストレスのない買い物を実現するために必要なことでした。SNS連携の豊富さだとか、尖ったビジュアルデザインよりも、これらのECサイトとして当たり前の機能が揃っていなければ、顧客体験は上がりません。
▼呉服販売ならではの機能はありますか?
先ほどの購入決済や仕立ての仕組みもそうですが、「バイヤー」の顔が見えるサイトづくりというのも、他のアパレルECではあまり見られない手法です。呉服は奥の深い世界ですから、信頼できるバイヤーさんから買いたいというニーズがあります。当社サイトでも6名の個性ある専任バイヤーを写真付きでアピールし、バイヤーごとに仕入れた商品を検索できる機能を備えています。
レコメンド機能のような、どのECサイトにもある機能の充実と、呉服ならではの商品提案や決済の仕組みの組み合わせが、安定して成長するサイトを実現していると思います。
お客様の「押し売りされたくない」という気持ちに配慮する
▼“当たり前の機能”として導入されたレコメンドエンジン「アイジェント・レコメンダー」ですが、導入にあたって具体的な用途や要望はありましたか?
「アイジェント・レコメンダー」を選んだ理由は、AIによる学習効果でした。運用する手間がかからず、自動的に最適化されるため、コストパフォーマンスが良いと考えたのです。
ただ、当社の取扱品は高額な一点ものが多いため、「この商品を買った人はこれも買っています」という、購買行動をベースとした併せ買い訴求アルゴリズムが効果を発揮しにくいという課題も見えていました。
そこで、「アイジェント・レコメンダー」には商品の閲覧履歴をベースとしたアルゴリズム中心のチューニングを施し、購買検討中のお客様に商品の比較や、組み合わせ検討をしてもらうための導線として利用しています。毎日100点以上の新着商品があるので、サイトの回遊性を高め、自分好みの品を探してもらえるようにすることに重点を置いています。
▼導入後、どのような効果があったのでしょうか?
導入効果としては、毎月レコメンド経由での売り上げ(ユーザーがレコメンドをクリックしてから、60分以内にその商品を購入したものが対象)として300~500万円程度の売上がレポートされていますが、実はこの数字はあまり気にしていません。
先にお話しした通り、着物や反物は非常に高額なものが多く、お客様は購入を決心するまでに長い時間をかけられます。たまたま良い品がレコメンドされたから、即決で買ってしまった……というお客様ばかりではないはずです。
むしろ、お客様の長い商品検討期間中に閲覧した商品をAIが学習しており、お客様が購入を決心したタイミングで意中の商品がレコメンド枠に表示され、購買導線になっているのかもしれません。
お客様は、高額な呉服の押し売りを受けたくないと感じています。無理に売れ筋商品をプッシュするのではなく、お客様と商品のアンマッチを少なくし、自分が好きになれる商品との出会いで喜んでいただきたいと思っています。「アイジェント・レコメンダー」はその思想に沿った使い方のできるツールだと思います。
▼今後、京都きもの市場のサイトはどのように進化していくのでしょう?
当たり前のサービスを当たり前に提供することが重要なのは、今後も変わりません。その中で、時代のニーズを追いかけ、いつ訪問しても安心して呉服を買えるサイトを作っていきたいと思います。
取材 / 編集: 園田 真悟(シルバーエッグ・テクノロジー)
▼AI搭載レコメンドエンジンの機能について詳しく知るにはこちら!▼