ギフトから生活の一部に、花のパーソナライズ戦略 – 「日比谷花壇」
創業150年の歴史を持つ株式会社日比谷花壇は、花き業界のリーディングカンパニーとして、ショップ販売、ウエディング装花、公共施設の管理運営など、「花と緑」を軸としたさまざまなサービスを展開しています。グループ会社である株式会社イノベーションパートナーズとタッグを組み展開しているEC事業も、そのひとつです。
人は、その時々の感情を表現するために花を買います。販売にあたっては、個人の気持ちに対する細やかな配慮が欠かせません。デジタル化が困難なこのビジネスを、日比谷花壇グループはインターネット上でどう実現しようとしているのでしょうか? イノベーションパートナーズ 塩野氏と、マーケティング担当 吉村氏に伺いました。
(本記事は2022年7月時点の情報に基づくものです)
【INDEX】
・ギフトから生活の一部へ ~ 日比谷花壇グループの挑戦
・顧客が花に込めた「気持ち」に応えるためのサービス開発
・レコメンドエンジンに欠かせないリアルタイム性
・花の新しい価値を届ける、多様なサービス展開を目指す
ギフトから生活の一部へ ~ 日比谷花壇グループの挑戦
▼日比谷花壇グループが進めているECへの取り組みを教えてください
日比谷花壇は、長い歴史を通じて培ってきたフラワーギフトのブランド力が非常に強く、安定した価値の提供ができています。ただ、グループ全体として、「ギフト」という枠を超えて、花の価値を再定義していこうという流れがあり、私たちも花を軸とした多様なライフスタイルの提案を心掛けています。
デジタル技術を活用したビジネスとしては、2019年から花のサブスク事業「ハナノヒ」を始めています。これは、花を生活の一部として身近に感じていただくための提案と言えます。
一方で、記念日やライフイベントでのフラワーギフト需要は続いていますから、オンラインでお客様のギフト需要にどう応えるかというのも重要な要素です。
▼パンデミックの影響は、花き販売にも影響があったのでしょうか?
多くの業界で同様かと思いますが、私たちも、店舗からオンラインへという消費者の行動変化を感じています。
日比谷花壇はゼロ年代のかなり早い段階でECサイトを始めたため、EC化率は高いですが、やはり花は店舗で買うべきという考えがお客様の間にも、売る側の私たちの間にもあったのかなと思います。
しかしコロナ禍を経て、行動が制限されたという背景もあり、新たなお客様がオンラインで花を購入いただけるようになったと考えております。店頭での花の受け取りと同じように、本来であれば手渡しが良いという価値観もありますが、オンライン配送もひとつの手段として選んでいただけるようになっています。
私たちもOMOに本腰を入れ、店舗とECそれぞれの強みや共通点をしっかり分析していかなければならないと思っています。どちらかを強化するというより、どちらでも同じように使っていただけるようにすることがゴールです。
日比谷花壇 公式ECサイト – Pop-upクーポンやチャット等の機能も実装している
顧客が花に込めた「気持ち」に応えるためのサービス開発
▼花き販売をオンラインで行う上で、特有の課題はありますか?
大前提ですが、花というのは、人の「気持ち」を伝えるために買われる商品です。恋人に愛を伝えるためとか、記念日を祝うためとか、故人を惜しむためとか、お客様一人ひとりに異なる背景があり、異なる想いがあります。
その気持ちに的確に応えられるECサービスを提供するためには、さまざまなレベルで多くの難しさがありました。
たとえば花の配送は非常にシビアです。配送日がお客様の記念日より1日早くても、1日遅くても、お客様の花に込めた気持ちを裏切ることになります。大切な人の誕生日や結婚記念日は、その日に花が届くことに意味があるのです。
そのため、受発注や在庫管理の仕組みだけでなく、適切な流通網の構築も含め、お客様の気持ちに応えられるシステムを作り込んできました。
▼まさに総力戦ですね……。
そうですね。また、花のオーダーに関しても、実店舗とオンラインとでは隔たりがあります。
お客様は、恋人のために百本のバラの花束を贈りたいとか、お母さんへの感謝を伝えるため数百円のお小遣いで花を買いたいとか、一人ひとり全く異なるニーズを持ってお店にいらっしゃいます。
店舗では、お客様のご要望やご予算を伺った上で、店頭にある花を花束などにアレンジしてお渡しします。
しかしネットショップでは、店舗と同じようなone to oneの仕組みを作り込むのは困難です。そこで、無理に店舗と同じ方法論を取るのではなく、多様な商品を揃え、用途別にジャンル分けをして、自分の気持ちに合った花を見つけやすくする、というご提案をしています。
顧客の商品選択に応じ、似つかわしい商品バリエーションをAIが選出
レコメンドエンジンに欠かせないリアルタイム性
▼レコメンドエンジンは、お客様の「気持ちに合った花探し」を支えるために導入したということでしょうか?
まさにその通りです。いくつかのレコメンドエンジンを検討しましたが、お客様の「気持ち」をくみ取って商品をレコメンドするシステムが必要でした。
1週間前は「亡くなった方のお悔やみ」で商品を選んだのに、今日は「友達の誕生日のお祝い」の商品を求めるといったように、ニーズの振れ幅が大きいです。また、誕生日のお祝いでも、贈り先が「娘」か「上司」かで、求められるものは異なります。
こういった「気持ち」に根差した商品選択をサポートするためには、単純な購入履歴や、顧客属性・商品属性に基づくレコメンドではうまくいきません。実際、海外の大手マーケティングプラットフォームベンダーのターゲティングツールも試しましたが、どうしてもレコメンドの内容が恣意的に偏りがちで、私たちのニーズにはマッチしないと判断しました。
最終的に選んだのが、顧客一人ひとりの行動情報をAIで分析してレコメンドを出せる、「アイジェント・レコメンダー」でした。
▼「アイジェント・レコメンダー」のどこを評価いただいたのでしょう?
やはり、事前に商品どうしを関連付けてレコメンドを出すのではなく、アクセスしている一人ひとりの行動に応じてレコメンド内容を変化させる、リアルタイム性です。
リアルタイム性が強ければ、例えば誕生日プレゼントを購入しに来た人に、先週買われた弔花の関連商品を延々と出し続けるということはなく、お客様がサイト内で数クリックするうちにニーズをAIが分析し、適切な商品をレコメンドできます。
弊社では先日のアイジェント・レコメンダー導入以降、レコメンド表示がお客様の商品探索の主要導線となっており、離脱率が下がるなどの成果が見えつつあるという状態です。今後シルバーエッグのコンサルタントとも相談し、チューニングを重ね、効果の向上を図っていこうと考えています。
花の新しい価値を届ける、多様なサービス展開を目指す
▼日比谷花壇のECサービスの将来や、マーケティングツールへの期待について、教えてください。
花をより日常の物として感じていただき、お客様一人ひとりの日々の感情に合わせた花の価値を提供するために、何が必要なのかを日々探索しています。当然、サイトの形式やサービス内容も、多様に変化していくかと思います。AIレコメンドなどのマーケティングツールに関しても、こういった変化に対応できるものを選んでいきたいです。
また、弊社では顧客体験を優先し、アダプティブWebデザインを採用しています。デザインが複数走り、それぞれに各種マーケティングツールのタグが入ることになるため、比較的干渉が起きやすく、導入に手間がかかりがちです。ツール選定には、導入時のサポートがしっかりしているものを選びたいですね。
取材 / 編集: 園田 真悟(シルバーエッグ・テクノロジー)