One to One(ワントゥーワン)マーケティングの基本: 目的と方法、成功事例


インターネット上に情報が溢れるいま、ユーザーの嗜好は一層多様化しています。

テレビCMのように同一の内容を消費者に一斉に配信する従来のマーケティング手法だけでは、現在では不十分といえます。

ユーザー一人ひとりが求めている情報(商品やコンテンツ)を探し出す手助けとなるようなマーケティングが、あらゆるチャネルで求められています。

ここでは、そのように情報やプロモーションをユーザーごとに合わせて提供する「One to Oneマーケティング」(ワントゥワンマーケティング)について、具体的な方法と効果を解説します。

 

One to One(ワントゥーワン)マーケティングの定義とその効果とは?

顧客ロイヤリティや顧客生涯価値の向上のためには、顧客のニーズに合っているというだけでは十分ではありません


【INDEX】

One to One マーケティングとは?
目的
手法
1. ニーズに合わせた情報や商品の提供
2. 意外性や楽しさの提供
3.  親密なコミュニケーション
One to One マーケティングとAIレコメンド
・ 機械学習
・ リアルタイム
・ リソース
成功事例
・ レコメンド経由受注が月4.6億円増! ファッションEC「d fashion」の 1to1の取り組み – 「マガシーク」
・ 客単価130%向上! コロナショックを乗り越え、ECでのスピード感のある商品展開を目指す – 「ブルーメイト」
まとめ


 

One to One マーケティングとは?

One to Oneマーケティングとは、ユーザー一人ひとりの傾向からニーズを読み取り、それぞれに異なる最適なコミュニケーションを行うマーケティング手法です。

マーケティングの手法は、マスマーケティング―――テレビCMのように視聴している顧客全員に対して画一的なメッセージを発信する手法―――から始まり、その後特定の集団ごとに異なる情報を提供するセグメンテーションマーケティングの手法が一般化しました。情報技術の発展により、性別や地域、年齢といったセグメントに応じて消費者に伝えるメッセージを変えることができるようになったのです。

しかし、多様化が進み従来よりも個性が認められるようになると、性別や年齢といった属性情報のみに基づく最適化では不十分な場面が増えてきました。現在では、ユーザー一人ひとりに合わせてメッセージを変えることが求められ、これに応える形でOne to Oneマーケティングが注目されるようになりました。

従来であれば、一人ひとりのユーザーに合わせて配信するメッセージを変えるなどということはリソース上不可能でした。しかし、情報処理技術が発展しクリックや購入履歴といったオンライン上の顧客行動情報を参照できるようになりました。これらのデータを元に機械学習技術が複雑な処理を自動化することができるようになり、現在ではOne to Oneマーケティングも一般的なものとなりました。

個々のユーザーの行動に合わせて異なる対応を用意するという点で、One to Oneマーケティングはパーソナライズドマーケティングとほぼ同義です

ただし言葉としてはOne to One マーケティングの方が先に使われるようになったため、パーソナライズドマーケティングないしパーソナライゼーションの方が、AIを始めとするより先端的な技術と緊密な印象が強いです。
 

目的

One to Oneマーケティングの究極的な目的は、顧客生涯価値(CLV / LTV)の最大化と言われています。

顧客生涯価値とは、一人の顧客の生涯において特定の企業との関係から得ることのできる価値を表します。どれだけたくさんの顧客に商品を購入してもらったかといったことではなく、むしろ一人の顧客がある企業からどれだけの価値を受け取ったかということです。短期的にコンバージョンを増やすことではなく、長期的/継続的に顧客が満足を感じられる価値を供給し顧客と信頼関係を築いていくことが、One to Oneマーケティングの目的なのです。

したがって、One to One マーケティングの成否は、サービスであれば契約期間の長さ、小売業であればリピート購入や好意的なレビュー、いわゆる「ファン」の割合といった、顧客ロイヤリティや顧客体験の質を指標とします。

もっとも、便利であるとか信用に足るといったことは、成功したOne to Oneマーケティングの必要条件にすぎません。

顧客ロイヤリティは、信頼だけでなく愛着や喜びといった感情によっても醸成されます。

その意味では、「親しみやすい」「おもしろい」「応援したい」といったあらゆるポジティブな感情を顧客が感じられることも重要です。
 

手法

では具体的に、どうすればOne to One な仕方で顧客にそういった感情を喚起させることができるでしょうか。
オンライン領域で顧客の好感を得るための、One to One マーケティングの3つの手法を以下にご紹介します。

1. ニーズに合わせた情報や商品の提供

オンラインのビジネスにとってOne to One マーケティングの第一歩は、必要なときに必要な情報をユーザーに届けることです。

実はこれは実店舗の店員であれば顧客コミュニケーションとして当たり前に行っていることですが、オンラインでは情報の多さや非対面であることから、必ずしも簡単なことではありません[1]

ユーザーの行動情報に基づき「あなたへのおすすめ」をサイトやアプリ上に表示するレコメンドエンジンを導入する意義はまさにここにあります。

ユーザーのオンライン上の行動情報は、対面コミュニケーションで得られない情報を補完してくれます。ユーザーがどのような嗜好で何を探しているかを行動から予測することができ、予測結果を「おすすめ」として表示することで、単に売れ筋商品や新商品を表示する以上のクリックやコンバージョンを期待できます。
 

 

単純なセグメントやトリガーの分岐で「おすすめ」を表示することもできますが、もしユーザー一人ひとりに最適化されたOne to Oneなおすすめを表示させたいならば、AIによって自動化されたレコメンドが必要になります。

2. 意外性や楽しさの提供

One to Oneマーケティングは、ただニーズに合っているだけではなく意外性や新鮮さの体験さえも実現します。

アパレルショップAはいつも自分が着ているような無難なスタイルだけをおすすめするとします。これに対して、アパレルショップBは、無難なスタイルもおすすめしますが、中にはいままであまり買ったことがないような、トレンドを押さえた色や素材でありながら自分にとっても着やすい形やテイストでもある商品もおすすめするとします。

Aはニーズには合っているかもしれませんが、他のショップがすすめるものと代わり映えがなく、わざわざAを訪問する意義や楽しさが感じられないかもしれません。

ユーザーに「おもしろい」「好き」と感じてもらうためには、単にニーズに適っているだけでなく、意外性、マンネリズムからの脱却も必要です。

もちろんただ目新しい情報をランダムに供給するのでは、いらない情報が多く混じってしまいます。そうではなくて、「なぜこれが出てくるの?でも、これもいいかも」と思ってもらえなければ返って逆効果です。

とはいえマーケティングを通じてそのような感覚を生み出すことは、画一的な方法では実現できず、非常に難易度が高いものです。詳細なデータの蓄積と、ときにヒューリスティック(heuristic: 発見的、試行錯誤的)とすら感じられる判断を下すことのできる高度なAIアルゴリズムが必要となります。

それでも、このレベルまでOne to Oneマーケティングを進められれば、ユーザーはおすすめ情報そのものを楽しむことができるようになります。オンラインショップそのものを支持する「ファン」を増やしていくことができるでしょう。

親密なコミュニケーション

One to One マーケティングは、親密さ(インティマシー)を高める手法でもあります。

メールの冒頭が「こんにちは、〇〇様」という挨拶で始まるニュースレターは、One to Oneマーケティングの原型といえます。挨拶に名前を入れるだけで、全体ではなく一人ひとりに宛てたメッセージになるからです。

今ではさほど珍しくもないし、だからといって親密な印象を受ける人はほとんどいないでしょう。それでもOne to Oneなメールで親密さを感じさせる手法は進化し、今でもいろいろな場面で応用されています。

たとえば、トークンを使用して本文そのものを分岐させることもできます。

しばらくサイト購入がないユーザーには「お久しぶりです」と添えたり、ユーザーの利用している店舗のスタッフの署名を添えたりといった工夫もあります。このようにトークンを利用したOne to OneなメールはAIツールや高性能なMAツールがなくとも簡単に実現できます。

また、レコメンドをメールにも使用するという方法もあります。

顧客の誕生日にグリーティングメッセージを送っているショップは多いでしょう。ここに誰にでも同じクーポンコードを添えただけなら、誕生日にあちこちのショップから送られる他のメールと変わらないでしょう。

パーソナライズされたメール例

ですが、クーポンに加えて、その人のために厳選したおすすめ商品の情報があれば、心の距離は少し縮まるかもしれません。ユーザーにとって使いどころのわからないクーポンほどうれしくないものはありませんが、使いどころがわかれば得をした気持ち、誕生日に少しうれしい気持ちに変えることもできるのです[3]
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One to One マーケティングとAIレコメンド

One to One マーケティングはその登場から、情報処理技術やAIの発展と深い繋がりがあります。手法の実現においても、多かれ少なかれこれらの技術を利用できるマーケティングツールが必要です。

実はこの中核をなすのは、AIレコメンドです。前節でもAIレコメンドがなければ実現できない手法がいくつかありました。

AIレコメンドは、ユーザーの行動情報をもとに、一人ひとりのニーズや嗜好を分析し、今その人が何を求めているかを予測します。まさにOne to One マーケティングの普及とともに発展したツールといえます。

ここではシルバーエッグ・テクノロジーのAIレコメンド「アイジェント・レコメンダー」をもとに、その技術がOne to Oneの顧客体験の実現のために何を可能にしているかもう少し掘り下げます。

機械学習

AIレコメンドの最大のポイントは学習機能にあります。

AIがデータから自動的に規則性などを学習し、予測・分類などの作業を行えるようになる仕組みのことを「機械学習」と言います。学習データを増やすごとに段々とAIが賢くなり、提案の精度が上がってきます。アイジェント・レコメンダーでは、機械学習の中でもディープラーニング(深層学習)というより高度な機械学習アルゴリズムを利用しています。ディープラーニングは分析を多層化して行うことで、複雑なユーザー行動にも対応するため、あたかも実店舗で接客を行う店員のように顧客に寄り添った提案ができます[2]

機械学習の分析や判断は静的なものではなく、ダイナミックにトライアンドエラーを繰り返すことで精度を高めていきます。

そのため、学習をすればするほど提案の精度は高いものになっていきます。これは長期的 / 継続的な顧客ロイヤリティを高めるというOne to One マーケティングの目的に一致しています。

 

リアルタイム・レコメンドサービス「アイジェント・レコメンダー」

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リアルタイム

One to One な顧客体験にとっては、長期的な分析と最適化も重要ですが、短期的にも優れている必要があります。

たとえば「ベーシックなものが好きだ」というファッションのテイストについての嗜好はある程度持続的かもしれませんが、「夏になったのでリネンのアイテムが欲しい」という欲求は季節の経過やすでに購入したかどうかで変化する一時的なものです。ユーザーのさまざまな欲求が短期的なのか、中~長期的に持続するものなのかについても、AIは見極める必要があります。

さて、ユーザーの短期的な欲求に応えるためには、行動情報をリアルタイムに分析 / 予測し提案を返さなければなりません。

ユーザーのニーズや嗜好は気まぐれで日々変化します。昨日欲しかったものが今日も欲しいとは限りません。海へ行く予定があったので5分前まで水着を探していたが、さっきLINEで中止の連絡があったので、水着を探すのはやめて前からほしかったリネンのシャツを探し始める―――といった行動はごく普通にあります。

しかしリアルタイムに最適なレコメンドを行うことには技術的な課題があります。

分析 / 計算速度の問題があり、実現するためには高度な処理能力も要求されます。

アイジェント・レコメンダーは20msのレスポンス速度でこれを実行することができます。ユーザーの1回1回のクリックといったわずかな行動情報も見逃すことなく、常時学習し最適な結果を返します。

リソース

セグメンテーションマーケティングや初期のOne to One マーケティングの課題であった、一人ひとりに違うコンテンツを用意することにかかるリソースの問題の大部分は、現在ではMAやその他のデジタルマーケティングツールを利用することによって解消されています。

アイジェント・レコメンダーも当然、One to One マーケティングの実現のために運用上のリソースの問題を解決します。

一度レコメンドの表示枠を設定すれば、その後は動的に分析 / 提案が実行されるため、レコメンドの表示内容は何もしなくてもユーザーの嗜好やライフスタイルの変化に合わせて更新されます。

もちろんメールやアプリ上でも、これは実現可能です。

レコメンドメールサービス「レコガゾウ」の機能を使用すれば、HTMLタグを挿入するだけで、メールを受け取るユーザー一人ひとりに最適化されたおすすめ商品を表示することができます。すべてのユーザーが、わざわざサイトを訪問しなくても、自分だけのために提案された商品の通知をメールなど別のチャネルで受け取ることができるのです。

これはECプラットフォームやMA、メール配信システムなどメールを配信しているツール上でも容易に実現できます[3]

リアルタイム・レコメンドメールサービス「レコガゾウ」

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成功事例

One to One マーケティングの成功はAIレコメンドにかかっていると言っても過言ではありません。

アイジェント・レコメンダーを導入し成功を実感している企業はいずれも、顧客体験を重視しOne to One マーケティングに力を入れています。

ここでは実際に「One to One」あるいは「個客」というキーワードで成功が語られた2つのインタビューをご紹介します。

レコメンド経由受注が月4.6億円増! ファッションEC「d fashion」の 1to1の取り組み – 「マガシーク」

https://www.silveregg.co.jp/archives/casestudy/magaseek

 

わずか5ヵ月ですが、アイジェント・レコメンダーの導入は明らかに成果につながっています。あくまでGoogle アナリティクスでの、レコメンドを経由したすべての受注の合計ですが、アイジェント・レコメンダー導入前後で比較したレコメンド経由の受注金額が、月額で4. 6億円増となっています

………

行動履歴が即時で反映されていることがわかります。レコメンドエンジンによっては、データの反映が翌日であるものもありますが、その場合はお客様のご要望に応えきれていないのではないかと思います。AI のロジックと言ってもなかなか伝わりづらいのですが、自分で実際に使ってみてすぐに行動が反映されているのがわかりますし、社内のメンバーからも「自分が欲しいものが出てきている」との声が上がっています。

導入事例を読む

客単価130%向上! コロナショックを乗り越え、ECでのスピード感のある商品展開を目指す – 「ブルーメイト」

https://www.silveregg.co.jp/archives/casestudy/cepo-bluemate

サイトの更改は2022年2月で、その後2か月ほどはシステム全体の調整や微修正を行っていましたが、その間にもAIの学習が進んでいたのかと思います。6月~8月期のレポートでは、レコメンド商品を見たお客様の客単価が、他のお客様に比べ平均で130%向上するという成果を得ています。私の目でも、レコメンド欄にはワンパターンでない、バラエティ豊かな商品が出ていると確認できています。レコメンドによる商品提案が、トレンドに敏感なお客様のニーズにマッチし、併売率の向上に寄与できていると考えています。

導入事例を読む
 

まとめ

店舗での接客においては当たり前であっても、技術的な課題により以前はオンラインでは実現困難だったOne to Oneの顧客コミュニケーション。

現在では情報処理技術の発展により、多様化する顧客一人ひとりのニーズに合わせて、適切な情報を適切なタイミングで提供することができるようになりました。One to One マーケティングの手法自体は現在ではごく一般的なものになりましたが、その質はサイトによってさまざまです。

One to One マーケティングの目的である顧客ロイヤリティや顧客生涯価値の向上のためには、ただ顧客のニーズに合っているだけでは十分ではありません。

意外性や楽しさ、親密さを感じさせることで、ユーザーにとって単なる便利なサイト以上のサイトになることができます。

他のサイトでは得られないような特別な体験は、ユーザーの好意を高め、リピーターやファンを増やすことにも繋がります。

One on One な顧客体験の質の向上は、AIレコメンドに負うところも大きいです。

ただ闇雲に、情報や商品を大多数のユーザーにリーチをさせるよりは、個々のニーズに合ったレコメンドを表示してアプローチをかける方が、結果的により多くのリターンが得られると考えられます。

シルバーエッグ・テクノロジーのAIレコメンド「アイジェント・レコメンダー」は、他のレコメンドエンジンでは技術的に困難な、機械学習による動的な提案を200msの速度でリアルタイムに返すことができます。 メール、その他のチャネルでもサイト上で行うのと同様の精度で、全ユーザーに一人ひとり最適なレスポンスを行うことができ、しかも特別なリソースはかかりません。

レコメンドのリプレースや導入を検討する際にはぜひ、それが高性能なディープラーニングによるものなのか、リアルタイムに動的な提案を返すことができるのか、また他のチャネルでの活用とその運用負荷について配慮して検討ください。

 

 



レファランス

[1] インターネット上でアクセスできる情報の量は増え続けています。多くのユーザーが求める情報を探し出せないというストレスを感じており、なんと約70%ものユーザーが「情報疲労」を感じていると感じています。

野村総合研究所『なぜ、日本人はモノを買わないのか?1万人の時系列データでわかる日本の消費者』東洋経済新報社, 2013.

[2] 機械学習/ディープラーニングについてはこちらでより詳しく解説しています。「『人工知能』という言葉について考える」( https://www.silveregg.co.jp/archives/blog/1175 )

[3] One to Oneなメールのシナリオと文例についてはこちらでより詳しく解説しています。「【文例5種】レコメンドを活用したシナリオメール:顧客を引き寄せるメールマーケティングとは?」( https://www.silveregg.co.jp/archives/blog/recommendation-mail-variations )

[4] メール配信に利用しているツールやプラットフォームによっては、そのままでは連携できない場合があります。詳しくはお問い合わせください。



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