セレンディピティ・マーケティングとは? ECにおける3つの実行ポイント
「セレンディピティ」という言葉が、ビジネスの世界でも聞かれるようになりました。セレンディピティは「偶然の出会い」「想定外の発見」といった意味の言葉ですが、従来のマーケティング手法へのアンチテーゼとして、「偶然による感動」こそが消費者の購買マインドを上げるのではないかと言われています。
しかし、「偶然」を待つだけでは、マーケティングにはなりません。マーケティング・テクノロジーでセレンディピティを生み出すことはできないのでしょうか? ECでのセレンディピティ・マーケティングの可能性について、探ってみましょう。
【INDEX】
・セレンディピティとは何か?
・ECの中のセレンディピティ生成ポイント
・セレンディピティを生み出すロジック
・ECの規模によって異なる、セレンディピティ・マーケティングの使いどころ
セレンディピティとは何か?
セレンディピティとは、「潜在的に求められているものとの偶然の出会い・発見」によってもたらされるポジティブな効果を表す言葉です。
偶然と言っても、「たまたま宝くじに当たった」というような偶然はセレンディピティではありません。あくまで消費者本人が潜在的に何かを欲しており、自覚・無自覚に関わらずそれを探索しているときに、想定しない形でその何かと出会うことを指し示します。
例えば、人工染料の発明は、ある化学者がマラリア特効薬の原料を研究中に偶然もたらされたもので、セレンディピティの一例と言われています。これも、その化学者が「安価な染料は役に立つ」と気づいていなければ、ただの実験の失敗となっていたでしょう。
セレンディピティは個人の体験や感性に依存するので、ECの世界でどのような“出会い”がセレンディピティとなりうるのかを明確に定義することはできません。何らかのマーケティング手法でセレンディピティを作り出すとしても、それは非常にカスタマー・セントリック(顧客中心主義)な手法となるでしょう。マーケターが売りたいものを顧客に押し付けるのではなく、顧客が主体的に求めているものに対し、“出会い”をプロデュースする仕組みが求められるわけです。
ECの中のセレンディピティ生成ポイント
ECの仕組みの中でセレンディピティを作り出すには、どうしたらいいでしょうか? なにしろ“偶然の出会い”なので、ランダムに商品を見せていけば、顧客がある時突然セレンディピティを感じることもあるでしょう。しかし、それではマーケティングになりません。問題は、どこで、どのように、セレンディピティの発生確率を上げていくかです。
比較的シンプルなセレンディピティ・マーケティングの実行ポイントを3つ、紹介します。
検索エンジンでの商品探索時
顧客が「こんなものが欲しい」と思ったときに、思いついた抽象的な単語を検索エンジンに入力することになります。この際に“ぴったりの商品ページ”がヒットすれば、まさに運命の出会いとなります。これはSEO対策の領域です。
サイト内回遊時
何か目的があってECサイトで商品を探しているときに、単に目的の商品が見つかるだけでなく、目的外の商品の中から「これは使えるかも!」と思える商品と出会えれば、それがセレンディピティとなり、非計画購買の発生確率が上がります。EC用のマーケティングツール、特に高機能なレコメンドエンジンが実現する領域です。
コンテンツ閲覧・視聴時
著名ライターのブログ記事や、好きな配信者によるYouTube配信のなかで、自分の知らなかった商品の存在を知らされることがあります。ライターや配信者に信頼感があり、商品紹介のストーリーが創発性に富んでいれば、ユーザーは自然とその商品そのものを信頼し、“出会い”を感じて購買確率が上がります。ある意味古典的なインフォマーシャルの手法ですが、そう感じさせないコンテンツ作成のスキルが求められます。
セレンディピティを生み出すロジック
上記3つのポイントのうち、3番目は非常に人間的なスキルに依存することになります。ある意味「友人の話を聞いていたら、思いがけないビジネスのアイディアが思い浮かんだ!」という古典的なセレンディピティ体験の延長線上にあるといっていいでしょう。
一方、1番目と2番目は、AI技術の進展などによって、比較的システム化がしやすくなっています。商品分析や顧客分析のアルゴリズムで、偶然の出会いの確度を上げていくことができます。
主な手法は下記の2つです。
商品特徴ベースの分析アルゴリズム
商品の形状や性質、用途などを分析し、多種多様な特徴データをキーワードとして持つことで、あいまいなニーズで商品検索をする顧客に最適な商品を提案できるようになります。
これは、特にSEOとの親和性が高い方法です。多数のキーワードを持つ商品がサイト内に増えれば増えるほど、検索エンジンがそれを汲み取り、最適なページを出しやすくなります。
一方で、この方法はあくまでキーワードによって事前に作られたカテゴリーや商品セグメントの組み合わせに基づくものです。AI技術はキーワード生成のために使われますが、キーワードと顧客ニーズのマッチングは、Googleなどの検索エンジンが用いる別種のAIアルゴリズムに依存し、原則同じキーワードで検索した顧客には、同じものしか提案できません。
また、サイトの中で当初想定していなかった良い商品に気づかせるといった使い方は、別のアルゴリズムで強化しない限り、難しいでしょう。
顧客行動ベースの分析アルゴリズム
サイトのユーザーがどんな商品を閲覧し、どんな商品の購買に至ったかというデータを膨大に集め、無数のユーザーの「行動の傾向」を分析することで、1人ひとりの潜在的なニーズにフィットした商品を提案するアルゴリズムです。前者と異なり、ユーザーと個々の商品とのマッチングを、AIが動的に行います。
行動ベースのアルゴリズムは、古くからある協調フィルタリングと呼ばれる技術をベースとしています。そのため、同じものを見ているユーザーには同じものしか提案しないとか、結果的に売れ筋の「手堅い商品」しか出さないという批判もあります。
しかし、現在の協調フィルタリング技術には様々な改良が加えられています。多様な行動をより深く分析することで、たとえ複数の顧客が同じ商品を見ていたとしても、一人ひとりの好みに応じて異なる商品が提案できるようになっています。また、よりロングテール寄りの商品を提案するようアルゴリズムをチューニングしたり、商品フィルタリングを組み合わせることで、本人が気づいていない「面白い商品」を提案することも可能です。
例えば「顧客が探している商品カテゴリー以外の商品群から、親和性の高いアイテムを推薦する」手法は、行動分析型のAI搭載レコメンドエンジンで比較的容易に実現できます。
この手法は、ユーザーがちょっとしたひらめきで同時購入した、一見関連性のない商品Aと商品Bの組み合わせをAIが記憶し、別のユーザーにも提案して、ウケる(=クリックされる)かどうかを学習することで実現します。顧客が何をひらめいてAとBの同時購入に至ったのかは、AIにも、人間のマーケターにも分かりません。ただ、構造的に「ひらめきが起こりやすい」商品の組み合わせは、提案することができるのです。
ECの規模によって異なる、セレンディピティ・マーケティングの使いどころ
ECにセレンディピティ・マーケティングの機能を実装するにあたり、商品特徴ベースの技術と、行動情報ベースの技術、どちらが適しているのでしょうか?
実は、ECサイトのスケールによって、それぞれ得手・不得手があります。
大前提として、行動情報ベースの技術は、そもそも小規模ECとはマッチしないという事実があります。例えば商品点数が100種以下のサイトでは、提案する商品をアルゴリズムでパーソナライズする必要性がありません。事前に決めた商品分類に基づき、その中でランダムに商品を紹介するだけで、網羅的な出会いが実現できてしまうのです。
その点、商品特徴ベースの技術は、顧客がサイトに訪問する前の検索段階で強みがあり、ビジネス立ち上げ期の小規模ECに適した手法と言えるでしょう。
しかし、事業がスケールし、数百以上の商品の品ぞろえと、安定した数のアクセスが稼げるようになってくると、行動情報ベースの技術によるセレンディピティ・マーケティングがより重要になってきます。
中〜大規模ECでは、スマホの狭い画面を通じ、サイト内の多様な商品の中から「自分のニーズを満たす一品」をいかに効率的に発見できるかが、顧客体験向上の鍵となります。行動情報ベースのレコメンデーション・アルゴリズムを用い、偶発的な“良い出会い”をプロデュースすることで、顧客のサイトに対する信頼感は上がり、中長期的な顧客との関係構築が期待できます。
2つの技術の特性と、自社のビジネスの状況を踏まえ、セレンディピティ・マーケティングの実現を考えてみてください。もちろん、2つの技術を組み合わせた活用も、良いソリューションとなるでしょう!
(文責:園田 真悟)