レコメンドとは? ビジネス活用のメリットを理解しよう
レコメンド機能はEコマース普及期のごく初期(1990年代)から使われてきたもので、「あなたへのおすすめ」などといったメッセージとともに表示される商品やコンテンツの紹介枠のことです。
あまりにも当たり前の機能となってしまったため、単に「似た商品を出す機能」とか「サイトが売りたい商品をアピールする機能」と思われることもありますが、そうではありません。レコメンドはユーザーの選択を助けるために欠かせない接客機能であり、何をどうレコメンドするかによって、サイトの売上も、顧客のサービスに対する好感度も、大きく変わってきます。
そもそもレコメンドとはなにか、効果を得るためにはどのように使うべきなのか、詳しく見ていきましょう。
【INDEX】
レコメンドとは何か?
レコメンドのもたらす効果
レコメンドの5つの効果と活用方法
レコメンド導入のポイント
レコメンドの未来 ~AI時代のユーザー体験
まとめ
レコメンドとは何か?
「レコメンド」とは、「推奨」、「何かを薦める」といった意味をもつ言葉です。オンラインビジネスでは、ECなどのデジタルコマースにおける商品・コンテンツの自動推薦システム=レコメンドエンジンの機能を指します。ネットショップやSNS利用の一般化と、機械学習技術の進展により、レコメンドという言葉は消費者にとっても身近なものになりました。
いま、レコメンドという言葉で想起されるのは、以下の4点でしょう。
1. コンテンツ配信サービス
自分の好みの音楽や動画が次々と「おすすめ」され、自動的に流れてくるサービス
2. オンラインショッピング
「あなたへのおすすめ」「これを買った人は、これも買っています」といったメッセージとともに表示される商品
3. インフルエンサーマーケティング
YouTuberなどのインフルエンサーが媒体を通じて“推す”商品やコンテンツ
4. ターゲティング広告
ネットの至る所に「おすすめ」という言葉とともに表示され、外部サイトへ誘導する広告
この記事で説明するのは、1番と2番の「レコメンド」です。3番と4番は、「おすすめ」という言葉が使われがちですが、実態としては「広告」であり、ネットショップなどで使われる「レコメンド」とは少し異なります。
▲単におすすめすれば「レコメンド」というわけではない
「レコメンド」とはパーソナライゼーションである
コンテンツ配信サービスやオンラインショッピングのレコメンドと、インフルエンサーマーケティングやオンライン広告の違いは、紹介されるアイテム(商品・コンテンツ)がユーザー視点でパーソナライズされているかどうかです。特に、ターゲティング広告は、技術的にもサイト内レコメンドと似た部分が多く、混同されがちですが、あくまで「企業が売りたい商品をスマートに売り切る」ための仕組みです。「ユーザーが欲しい商品をとどける」レコメンドとは、根幹部分で異なります。
One to One接客の重要性
レコメンドエンジンは、売りたいものを売りつけるためにあるのではありません。顧客を観察して「欲しいもの」を探し出し、気持ちよく買い物をしてもらったり、コンテンツを見続けてもらったりすることに意義があります。
たとえば、食品販売のECショップで、土用の丑の日になると必ず全ユーザーにうなぎをレコメンドするシステムがあれば、それは純粋な意味でのレコメンドエンジンとは言えないでしょう。そうではなく、土用の丑の日にも別のものが食べたい顧客のニーズにOne to Oneで応え、それぞれに最適な商品を提案し、売上を上げていくのが、レコメンドエンジンのミッションです。
このためレコメンドは「顧客セントリックなツールである」ことが重要です。次のセクションでは、ECサイトなどに実装されたレコメンドが、顧客にとってどのような効果をもたらすのか、具体的に見ていきます。
▲レコメンドは実店舗ビジネスの時代の接客をデジタルで再現する
レコメンドのもたらす効果
ECなどのオンラインサービスで、レコメンド機能は重要な役割を担っています。レコメンドエンジンによるニーズ予測と提案には、単に商品を見せる以上の効果があり、顧客に変化を引き起こします。
レコメンドによるニーズ予測と顧客に引き起こす心理的効果
自分が欲しいものがある程度明確であれば、「検索」によって手を動かして目的のものを探すことができますが、これには手間がかかります。サイト内のキャンペーンバナーなどの「サイト内広告」で商品を受動的に知ることもできますが、これは必ずしも欲しいものが表示されるわけではありません。
レコメンドは「検索」と「サイト内広告」の機能を補完するかたちで、ユーザーのニーズを予測し、画面上にさりげなく表示します。能動的に商品を探し回る手間をはぶき、自分の好きなもの、欲しいものとの出会いを生み出す効果があります。
事業者視点で見ると、オンラインサービスに実装されたレコメンド機能は、行動経済学で言われる「ナッジ」の効果を引き起こします。ユーザーが自分の好みやニーズに合ったアイテムが自然と目に入ることで、購買意欲が喚起され、速やかな購入行動を促す効果があります。
レコメンドが変える顧客行動と数値的な効果
レコメンドエンジンのニーズ予測精度が上がることで、ユーザーの購入行動(コンテンツサービスの場合閲覧・視聴行動)も顕著に改善します。
たとえば、YouTubeでは2000年代の中盤にレコメンドエンジンをAIベースのものに換装した結果、動画の連続視聴率は大幅に改善されました。「ショート動画を延々と見続ける」といった現代の視聴文化を形作ったのは、精度の高いレコメンドエンジンの働きによるものと言えます。
また、国内でもアパレルECサイトの売上の10%~20%がレコメンド経由で発生しているとのデータがあります。AmazonやNetflixでは、売上の半分以上がレコメンド経由で発生しているとも言われており、ビジネスに欠かせないものになっています。
▲動画配信サービスでレコメンドを改善した結果、視聴数が大きく伸びた
▲アパレルECサイトでレコメンド経由の売上が占める割合
レコメンドエンジンによる顧客ニーズ分析方法
レコメンドエンジンが用いる顧客ニーズ分析の手法には、マーケターの知識と勘に頼った個別指定から、属性ベースの商品/顧客クラスタリング、ディープラーニングを用いた商品分析までさまざまなものがありますが、主流となっているのは、個々のユーザーの行動情報を分析してニーズの高いアイテムを予測する手法です。行動情報を分析する機械学習のアルゴリズム(現在は「予測AI」とか、「プレディクティブAI」と呼ばれます)は成熟しており、他の手法と比べ高い精度が出ます。
より発展的な手法として、行動情報分析のアルゴリズムと、別のアルゴリズム(商品の特徴やユーザーのデモグラフィック情報、天候などの環境情報)を組み合わせて精度を高める手法が一般化しつつあり、大規模なECサイト・コンテンツサービスで実装が始まっています。一方、中小のECサイトでも、顧客体験の向上による差別化のために、予測AIを使ったレコメンドエンジンの導入が進みつつあります。
レコメンドの5つの効果と活用方法
レコメンドの導入効果をもう少し分解してみると、以下のようになります。
コンバージョン率の向上
サイトにアクセスしたユーザーの好みやニーズを分析し、欲しいものを予測していち早く表示することで、商品詳細ページへのアクセスを促し、購入に至る確率を上げます。特に、スマホを使ったすきま時間のショッピングでは、このレコメンド効果は重要です。
回遊性の向上
ユーザーが見たいもの、比較したいものなどを予測して、次々と提示することで、ユーザーがサイト内を効率よく回遊できるようになります。動画や音楽のストリーミングサービスでは、見たい/聞きたいコンテンツが自動的に飛び込んでくるUIを構築することで、回遊性の向上と同様の効果(サイト・アプリの利用時間の最大化)を得ています。
離脱率の低減
ユーザーが商品を「買わない」という決断をした際に、別の好みにあう商品を提示することで、サイト内に留まるよう促すことができます。また、商品探しの途中で好みのものが見つからず諦めてしまうのを防ぐ効果もあります。
購入単価/併売率の向上
目的の商品と併せて購入しやすい商品(例:シャツとコーディネートできるパンツやアクセサリーなど)をレコメンドすることで、併せ買いを促す効果や、より単価の高い商品に気づかせる効果が期待できます。
サイト再訪率/F2転換率の向上
ユーザーが商品を購入し、サービスを離脱したあとにメールなどを介して送られるレコメンドには、ユーザーのサイト再訪を促す強い効果があります。購入した商品とマッチする別の商品や、長期的なニーズ予測に基づいた商品をパーソナライズして提案することで、「次もこのサイトで買いたい」というモチベーションを持ってもらうことができます。
このように、レコメンド機能をフル活用することで、単に売上を増やすだけでなく、カスタマージャーニーのさまざまな課題を解決し、KPI達成をサポートすることができます。また、サイトの中に表示するだけでなく、メールやLINEのような顧客コミュニケーションツールと組み合わせ、効果を増大させることもできます。
レコメンド導入のポイント
自社サービスでレコメンドエンジンを使いこなすために重要となるポイントを2つ、紹介します。
効果を最大化するAIとチューニングの必要性
上で見たように、レコメンドの効果は多岐に渡ります。こうした効果を最大化するためには、少しずつ異なるチューニングが施されたAIモデルが必要になります。
例えば、商品詳細ページでは「同じカテゴリーで比較しやすい商品」を中心としたレコメンド、カートページでは、「もう1点ついで買いのしやすい商品」といった具合です。単体のエンジンを開発すれば、すべての状況で効果を発揮するというものではありません。状況に合わせたチューニングや、運用ノウハウが必要となります。
顧客とのタッチポイント全体に効果を広げるには
レコメンドエンジンを自社サービスに導入する場合、一般的なECプラットフォーム(カートシステム)の基礎機能として提供されているものを使うこともできますが、独立した顧客体験のためのツールとして導入したほうが、より高い効果が得られるでしょう。
独立したツールは、精度の高いニーズ予測エンジンを、顧客の利用シーンごとにチューニングして実装することができます。また、既存のカートシステム、CRM、MA、接客ツールなど、利用中の複数のツールと組み合わせ、多様な顧客接点を通じて精度の高いレコメンドを提示することができるようになります。これにより、顧客体験の全体的な向上が実現できます。
レコメンドの未来 ~AI時代のユーザー体験
オンラインビジネスにおけるレコメンド技術は、今後どのように進化していくのでしょうか?
データの種類の多様化
レコメンドエンジンが使えるデータは多種多様になっており、またその手法も次々と新しいものが生まれています。例えば、米国の音楽ストリーミングサービスや動画配信サービスは、ディープラーニングでコンテンツの中身(ストーリーや絵、音楽の曲調)を解析し、行動情報と組み合わせて高精度なレコメンドを行う技術を、既に実用化しています。
ECの世界でも、先に説明したととおり、CRM(顧客関係管理システム)やCDP(顧客データプラットフォーム)に蓄積された情報の解析や、商品の説明文・画像のような情報の解析、また天候や道路事情のような周辺情報の解析と組み合わせた、より高度で、個々の事業者のビジネスモデルに適したレコメンドが普及していくかもしれません。
AIエージェントでの応用
2025年現在、自然な対話や画像などをつくりだす生成AI技術に注目が集まっていますが、将来的にはこれらの生成AI技術に、レコメンドエンジンのような予測AI技術を組み合わせることで、ショッピングアシスタントのような、人間にとってより使いやすいAIエージェントも生まれてくるでしょう。
レコメンドエンジンの本来の目的は、かつて実店舗ビジネスの中心であった、顧客と店員のOne to Oneコミュニケーションによる「信頼」に基づくビジネスを、オンライン上に再現することです。ネットショップを信頼してもらい、快適な買い物体験を生み出すために、技術の進化は続いていきます。
まとめ
レコメンドとは、本来何かをおすすめすることを意味します。オンラインビジネスの世界ではSNSやECサイトで見られるように、おすすめの商品やコンテンツを表示する機能のことをレコメンドと呼び、レコメンドエンジンがこの役割を担っています。
なぜレコメンドが重要かというと、レコメンドエンジンに実装された予測AIはサイトやアプリ上で顧客とのパーソナライズされた体験をもたらし、顧客の心理や行動を変えることができるからです。また、レコメンドのAI自体も、顧客の行動の変化から、その人が何を求めているか、ニーズを予測し表示する内容を変化させます。
レコメンドのこうした機能によってもたらせる効果は、離脱率の防止や併売率、再訪率の向上など多岐に渡りはっきりと数字に表れます。AIの進化により、レコメンドの精度と効果は今後ますます重要なものになっていくでしょう。
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(文責:園田 真悟)