ロングテール戦略の基本とニッチな商品を活かす方法、成功事例
少数のヒット商品の影に隠れた膨大なニッチ商品にはマーケティング上どんな意味があるのでしょうか?
マーケティングに携わるならば、「ロングテール」が2000年代の Amazon や iTunes Store の成功を裏付けた理論であることを知っている人は多いでしょう。
しかしこの理論、現代の多くのECサイトではどのように応用されているのでしょうか?
この記事ではロングテール戦略の近年の成功事例とともに、具体的な方法についてまとめています。
【INDEX】
ロングテールとは
・ マーケティングにおけるロングテール戦略とは?
ロングテールが向いていないケース
ロングテールの歴史的なビジネスモデル
多様なオンラインサービスで展開される現代のロングテールモデル
1.CtoCサービスや中古品・ハンドメイド販売
2.一般的なECサイトでの使いどころ
ロングテールを活性化させる方法
1.レコメンド
2.ロングテールキーワード
3.ユーザーの主導権
まとめ
ロングテールとは
「ロングテール」という言葉はもともと統計学上の用語として使用されていました。
2つの量の間の関係を表すべき乗則の曲線が、下の図のようになったとき、右側の長い黄色い部分を「ロングテール」、左側の黄緑色の部分を「ヘッド」と呼びます。
By User:Husky – Own work, Public Domain, Link Picture by Hay Kranen / PD, Wikipeddia
マーケティングにおけるロングテール戦略とは?
マーケティングの分野では、2004年にWired誌の記事でクリス・アンダーソンが、この「ロングテール」こそオンラインのビジネスモデルにおいて重要な役割を果たしている部分であると説明し、注目されるようになりました(1)。
多くの小売モデルでは、各商品のタイトルと売上額や販売数の関係を曲線で表すと、上の図のようなロングテールモデルになります。全体の売上を牽引する一部のヒット商品がヘッド、大部分のヒットしない商品がロングテールにあたります。
マーケティングにおけるロングテールモデルとは、このヒットしない商品群である「テール自体」を「新しい市場として見る」という考え方です(2)。
ここで従来的でもっと基本的な考え方を振り返ってみます。
普通、全体の売上に占める割合は、多くの場合ヘッド>テールだとします。この場合、効率的なことを考えれば、少数のヒット商品が売れれば全体の売り上げは上がるのだから、ヒットしない商品の販売に注力する必要はありません。
いわゆる「パレートの法則(80:20の法則)」、すなわち売上上位20%の商品が全体の売り上げの80%を占めるという傾向にのっとった考え方です。
しかし、テール全体の売り上げが、ヘッドを大きく上回ったらどうでしょうか。
音楽配信やマーケットプレイスなど、2000年代の新しく登場したビジネスモデルではこのような現象がそこここで起こりました(3)。
80対20の法則の進化(クリス・アンダーソン『ロングテール』[p. 202] からの引用)
それというのも従来的な店舗に陳列できる商品数には限りがありましたが、オンライン上には商品を無数に掲載することができ、ヘッドを上回るほど長いテールを形成することができるようになったからです。
こうして、従来あまり顧みられることのなかったロングテールの部分、すなわち売れ筋ではないニッチ商品の販売を活性化するにはどうすればよいか、ということがマーケティング戦略の一つとして注目されるようになったのです。
ロングテールが向いていないケース
ロングテールモデルは当初よりどういったビジネスで力を発揮するか、あるいは発揮しないかがはっきりと認識されていました。
ロングテールモデルは次のような場合には向いていません。
スペースが限られた実店舗
一つの商品が別の商品のスペースを奪う実店舗には、テールを伸ばすだけの商品を十分に陳列することはできません。
売り上げを立てるには、月に数回ペースで物好きが購入するような売れない商品ではなく、毎日売れるような注目度の高い商品をできるだけ優先して置かなければなりません。
在庫の保管にコストがかかる場合
膨大な在庫があってこそ力を発揮するロングテールモデルですが、在庫の保管にコストがかかっては意味がありません。
たとえECであっても、保管する際の設備や人件費が大きい場合は、いくらテールが長くても効率的に利益を伸ばすことはできません。
ロングテールの歴史的なビジネスモデル
歴史的にはロングテールモデルはデジタル配信やマーケットプレイスが向いているとされていました。
たとえばiTunes Store やRhapsody(現在の Napster)といったデジタル配信や、Amazonのマーケットプレイスはロングテールモデルが注目されるきっかけとなったサービスの一つです(3)。
いずれもロングテール商品の売上がこれらのビジネスの成長に大きく貢献しました。
これらのサービスモデルのポイントは次の3点です。
1. 商品数が膨大でニッチなアイテムまで集積されていること
2. ユーザーがアクセスしやすいこと
3. 物理的な在庫管理や物流のコストをなくす/可能な限り軽減すること
とはいえダウンロード販売が中心だった音楽配信サービスですが、現在ではサブスクリプションが主流となり、その過程で現在ではロングテールよりもヒット商品を押し出す傾向が強くなったと言われています。
この傾向は漫画や動画配信などの他のデジタル配信についても同様です。
その背景には、サブスクリプションモデルが本質的にできるだけ多くの登録ユーザー者を集めねばならないこと、大手レーベルや大手出版社の意向などがあります。
またマーケットプレイスでロングテールを促進し成功したAmazonですが、現在ではデジタルコンテンツのサブスクリプションや人気商品の直販に力を注いでおります。
マーケットプレイスはレコメンドの自動化や物流コストの削減で利鞘を得ているものの、ニッチマーケットの分析にはそれほど注力していないことが指摘されています(4)。
多様なオンラインサービスで展開される現代のロングテールモデル
現代ではどういうビジネスや場面でロングテールに考慮する必要があるかを見ていきます。
CtoCサービスや中古品・ハンドメイド販売
そもそもヒット商品の在庫を大量に用意したり同一のサービスを大量に提供することができない場合や、ニッチな商品も目立たせたいサイトが成功するためには、ロングテールを促進する必要があります。
こうしたサービスには例えば次のようなものがあります。
・ オーダーメイド商品のサイト
・ オークションや中古品販売のサイト
・ 人材サイト
・フリーランスプラットフォームやマッチングサイト
上のようなサービスでは、商品や案件をできるだけたくさん集積し、ユーザー一人ひとりにまんべんなく、しかもニーズにマッチした形で情報が行き渡るようにする必要があります。
特定のコンテンツのみに人気が集中することは望ましくありません。
一般的なECサイトでの使いどころ
ここまでを振り返ると、次のような疑問を持つ人もいるかもしれません。
配信系もヒット主導に移行しているなら、ロングテール戦略はもう古いんじゃない?Amazon マーケットプレイスのように超巨大なプラットフォームやCtoCサイトは特殊なビジネスモデルなので、一般的なECサイトではそれほどロングテールを気にする必要がないんじゃないか?
しかしそんなことはありません。
一般的なECサイトであっても、ロングテールは重要です。
扱っている商材の専門性や嗜好性が高かったり種類が豊富な場合は、ロングテールモデルが適している可能性が高いです。
そもそもヒット商品だけを売っていれば良い時代は終わっています。
問題は使いどころとさじ加減です。
使いどころ① 限定商品や企画商品でサイトの独自性や付加価値を高めたい
主流商品はたしかに売りやすいですが、似たようなものならどこでも買えることも少なくありません。
価格競争や流通で大規模モールに太刀打ちできない小規模なECサイトの場合、そうした商品だけでは独自性がなく、ユーザーは価値を感じません。
この場合、商品の独自性で付加価値を向上させることも重要です。
たとえば地域限定の商品や期間限定の企画商品は、本当にその商品が欲しいユーザーにとっては、そのサイトを利用するきっかけになります。
この場合、この限定商品は、完売直後にプレミアムがつくような人気キャラクターやアーティストでなくてもかまいません。
むしろニッチなロングテール商品の方が、即完売でユーザーをがっかりさせることなく、本当にターゲットとしているユーザーのニーズを満たすことができます。
使いどころ② 法人向けや個人業種向けの専門的な商材を扱っている
大工道具、美容師専用の機材、クリエーターが使用する画材…
こうした商材は、ニッチな世界ですが当事者にとっては必要不可欠な上、レギュラーの消耗品はもちろん、クオリティや効率を上げるためのより専門的な商品までニーズがあります。
専門性の高いサイトは多くのアイテムを取り揃えてこそ、ユーザーのニーズに応えることができます。
このため、ニッチな分野であっても品揃えは数十万とか、中には一千万越えの場合もあります。
例えばフローバル株式会社様の運営する「配管部品.com」(※)は「配管」というカテゴリー特化したBtoB ECサイトですが、大規模な工場向けの大口購入だけでなく「ひとり親方」のような個人事業主の細かいニーズにも配慮したECサイトを設計し、ロングテールモデルを成功させています(5)。
※「配管部品.com」の成功事例はこちらで読めます。
「ロングテール商品が売れ始めた! BtoB ECサイト成功の鍵はユーザービリティと発見的レコメンド 」– フローバル「配管部品.com」
フローバル様 成功事例はこちら
使いどころ③ アーリーアダプター向けの施策としてロングテール商品群を活用したい
中小規模のECサイトや専門的な商材を扱うビジネスではニッチ層を良く分析しロングテール商品を活性化する必要がありますが、これに対して大規模企業では、ヒット商品を中心にした大衆市場向けの戦略と、ロングテール戦略を両立するためのリソースを持つことが可能です。
いわばロングテールとヒット商品を両方重視したハイブリッドモデルです。
長いロングテールを用意しテールを太らせることは、実はアーリーアダプター向けの施策になります。
アーリーアダプター(初期採用者)とは、流行を主導するインフルエンサーや業界のオピニオンリーダー的なポジションにあるユーザー層を指し、ブランドのイメージの浸透や商品の普及に非常に重要な役割を果たします。
彼らは他の消費者に先駆けて希少性のある商品を手に入れることに価値を見出す傾向があり、アーリーアダプター向けのロングテール商品の種を蒔いておくことで、将来のヒット商品の芽を育てることができるというわけです。
例えばLEGO社は、ヒット商品を前面に押し出しつつも、多様な商品を提供することで売上を最大化しています。
映画やキャラクターとコラボレーションしたセットでも、メインストリーム向けのものと、コレクター向けの高価な限定セットの両方を展開しています。
またLEGO社の「LEGO Idea」というプラットフォームでは、コミュニティ主導で製品アイデアを募集し、それを限定版の商品として販売しています。近年実際に製品化されたアイデアには、「ピクサーのルクソーJr.」「ウエスタンリバー蒸気船」「コマドリ」「イタリアのリビエラ」などがあり、LEGOのラインナップを専門的で豊かなものにし、ニッチなターゲット層へのリーチに貢献しています(6)。
ロングテールを活性化させる方法
ここまででロングテールモデルが適したビジネスやECサイトでの使いどころを見てきました。
では、実際にロングテールを活性化させるにはどうすればよいでしょうか。
ここではロングテールを活性化させるのに必要な技術や施策を、重要なものから3つまとめてみました。
レコメンド表示・検索エンジン・UGCがロングテールを活性化
1. レコメンド
「あなたへのおすすめ」という見出しでお馴染みの商品のレコメンド表示は、おそらくロングテールの活性化にもっとも重要な技術です。
レコメンドがロングテール商品の販売に与える好影響は3つあります。
1. 隠れた商品の発見を促進: ユーザーが通常なら見逃しているようなニッチな商品を提案し気づきを与えてくれます
2. ユーザー一人ひとりのニーズにマッチ: 人気度に関わらずユーザーの嗜好や必要性にマッチした商品を表示します
3. 在庫の低減: 発見の促進とニーズのマッチにより、人気順や新作順に並べただけでは売れ残ってしまう商品を循環させます
しかしこれらは、ただレコメンドを入れていれば実現されるわけではありません。
ロングテールの価値を引き出すには、高精度なレコメンドが必須です。
ユーザー一人ひとりに最適な商品を提案するには、行動データ(購入履歴、クリックデータなど)や商品のカテゴリー情報などを組み合わせた高度なパーソナライゼーション技術が必要です。
また、アクセスの少ない商品に適切な発見の機会を与えるためには、人気がなかったり新しく入荷したばかりで商品に関する閲覧やクリックが少ない場合(=コールドスタート)でも適切に表示されるレコメンドを提供できなければなりません。
さらに、在庫の入れ替わりや価格変動が激しい場合、売り切れ商品や古い情報が表示されることのないよう、リアルタイムでスケーラブルなシステムが必要です。
2. ロングテールキーワード
ロングテール黎明期、検索エンジンは、従来なら街の古書店やレコードショップに並んだマニアックな商品に、ユーザーが簡単にアクセスすることを助けました。
それは現在でも変わりません。
そのようなニッチ商品へのアクセスを提供するのが「ロングテールキーワード」です。
ロングテールキーワードとは、具体的な内容を含む複数の語句から成る検索キーワードのことです。
たとえば、「靴」よりも「ランニング用軽量メンズシューズ」のように、特定のユーザーニーズに応える形を取ります。
検索ボリュームは少ないが、競争が比較的少なく、特定の問題解決や目的を持つユーザーにアプローチできるため、コンバージョン率が高くなる傾向があります。
SEOにおいては、ロングテールキーワードを活用することで、購買意欲の高い訪問者を集めやすくなり、特に中小規模のサイトに効果的です。
3. ユーザーの主導権
ニッチユーザーのニーズにも応えた商品展開は、ユーザー主導のコンテンツ(UGC)を活用することで相乗効果を発揮します。
まず、ユーザーの率直な感想は売上ランキングにないような商品にも信頼感を与え、購入を後押しします。
これは大規模ECにも中小ECにも言えることです。
ユーザーは他のユーザーが投稿した使用感や使い道などのレビューがあると、安心して購入に踏み込めます。
ユーザー投稿の写真も、ニッチ商品へのアクセスと購入動機を与えてくれます。
とくにSNSの画像は、画像検索結果にも表示されやすいため、ロングテールキーワードのようなアクセス経路となります。
また、ファッションやインテリアなどのジャンルでは、ユーザーが投稿するコーディネート写真や実物の写真が、判断の決め手になります。
さらに、ヒット商品だけでなくロングテール商品の活性化は、ニッチなユーザーとの長期的関係にとっても重要です。LEGO Ideaではユーザーのアイデアを活かし人気投票を行うことで、信頼と文化を構築しました。
こうしたUGC施策は企業にとって、ユーザー主導の次のトレンドを見つけるきっかけにもなります。
まとめ
マーケティングにおけるロングテール戦略とは、売り上げは少ないがニッチなユーザーには響く商品群をいかに活性化させるかというものでした。
これは少数のヒット商品を作ってその売れ筋をさらに売れるようにするヒット商品主導型のモデルと比べると、効率が悪そうに見えます。
実際、実店舗での販売や流通、在庫管理にコストがかかる場合にはロングテールは向いていません。
しかし、ユーザーのニーズが多様化する現代には、オンラインビジネスにおいてロングテールを無視することは得策とは言えません。
ECサイトやCtoCプラットフォーム、人材サービスなど、幅広いビジネスでロングテールは重要な役割を果たしています。
ロングテールを活性化させるためには、自社のビジネスモデルに合わせて、レコメンドエンジン、SEO対策、UGCを活用していくことがおすすめです。
この記事が、ロングテールを自社のビジネスでどのように活かすか考えるきっかけになれば幸いです。
最後に、シルバーエッグ・テクノロジーが提供するAIレコメンドエンジン「アイジェント・レコメンダー」の導入事例集をご紹介します。
ファッションやBtoB EC、電子書籍、メディアサイトなど、幅広い業種でパーソナライズされた顧客体験を提供し、ロングテールを活性化しています。
【参考】
(1)Wikipedia, “Long tail”
https://en.wikipedia.org/wiki/Long_tail
(2)Chris Anderson, The origins of “The Long Tail”
https://longtail.typepad.com/the_long_tail/2005/05/the_origins_of_.html
(3)クリス・アンダーソン『ロングテール』早川書房(2014)
(4)Practical Ecommerce, Amazon Doesn’t Do Long-tail. Why Should You?
(5)シルバーエッグ・テクノロジー, 「ロングテール商品が売れ始めた! BtoB ECサイト成功の鍵はユーザービリティと発見的レコメンド – フローバル『配管部品.com』」
https://www.silveregg.co.jp/archives/casestudy/flobal
(6)LEGO, LEGO IDEAS