ECビジネスの次の一手は? 海外事例から学ぶ、2025年4つのマーケティングトレンド


2024年のEC業界は、生成AIや大規模言語モデル(LLM)を中心とした技術に注目の集まった年でした。生成AIを用いたマーケティングサービスは、商品説明文などのライティング自動化やチャットボットによるカスタマーサポートなど、いくつかの用途で実装が進みつつあります。

 

2025年に向けて注目されるのは、より広範なAI技術がマーケティングの世界に浸透し、ECの未来を形作るという予測です。生成AI技術が既存のマーケテックと組み合わされることによって、より高度でパーソナライズされた顧客体験の実現ができるようになるでしょう。また、既存のシステムでは活用が難しく、「収集したが使えない」とされていたデータの利用が進み、ECビジネスの競争力強化が進む可能性があります。

 

今回は、最近海外のマーケティングニュースサイトなどで注目されつつある、マーケティングに関する4つのキーワードについて解説します。

 

INDEX

1. AI画像認識 – 視覚的な検索とレコメンドの進化
2. ゼロパーティデータ活用 – 顧客信頼を築く新しいデータ戦略
3. マイクロモーメント・マーケティング – リアルタイムでの顧客ニーズ対応
4. プレディクティブAI – 顧客ニーズを先読みする技術
・まとめ


1. AI画像認識 – 視覚的な検索とレコメンドの進化

ECサイトで商品の検索やレコメンドに使われている画像認識は、ディープラーニングなどのAI/機械学習技術によって進化してきました。今後は生成AIの関連技術を取り入れることによって、更なる精度の向上や、用途の拡大が実現していくと見込まれています。

 

2024年現在活用が進んでいる「画像生成AI」とは、画像と文章の関係性を学習させた大規模言語モデル(LLM)を用い、おもにユーザーの入力したテキストから画像を描き出すサービスです。しかし、同じ技術を用いることで、例えば、在庫商品の画像やユーザーがアップロードした画像から関連する文章やタグを生成したり、類似品を高精度かつ高速に検出したりすることが可能になります。

 

生成AI技術で画像とテキストを結び付けた画像検索機能は、ヨーロッパで中古高級ブランドEC事業を展開するVestiaire Collective(ヴェスティエール コレクティブ)などで既に実用化が進められています(*1)。同社は嗜好性の高いアパレル商品を取り扱い、商品バリエーションの非常に多い中古マーケットプレースであることから、検索結果に商品の視覚的な類似性を反映させました。AI画像認識技術を活用し、キーワード検索を画像に変換することで、より関連性の高い結果を出し、従来の検索ウィジェット経由と比較して2倍の売上を上げることに成功しました。

 

シルバーエッグ・テクノロジーが提供する画像解析レコメンドサービス「V-レコ」にもLLMの技術を採用しており、技術の普及が始まっています。

 

▲LLM技術を用いた新世代画像解析サービス「V-レコ」資料

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2. ゼロパーティデータ活用 – 顧客信頼を築く新しいデータ戦略

ECサイトがユーザー分析に利用する顧客データは、ユーザーの閲覧ログ・購買ログのように自社サイト内で収集したデータである「ファーストパーティデータ」や、他社から供給を受けた「サードパーティデータ」が中心でした。プライバシー規制の強化が進むいま、重要度が増しつつあるのが、「ゼロパーティデータ」と呼ばれる消費者が自発的に提供したデータ(例えばアンケート回答やフィードバックなど)です。

 

ユーザーの意図が直接反映されたゼロパーティデータは、他のデータに比べ信頼性が高いとされ、これまでもCRMによる顧客分析などで使われてきました。しかし、ゼロパーティデータには問題もあります。ユーザーが任意で提出するデータは、データの量と多様性が限られ、また情報の精度にもばらつきが生じがちとなるため、顧客全体にメリットをもたらす分析が行いづらかったのです。

 

最近のAI研究の進展に伴い、これらの課題も徐々に克服されつつあります。ポイントは、網羅性のあるファーストパーティデータと、ゼロパーティデータの組み合わせ活用です。

 

例えば、米国Amazonでは、ユーザーが作成したウィッシュリストやレビュー(ゼロパーティデータ)と、過去の購買履歴や閲覧履歴(ファーストパーティデータ)を統合し、関連性の高い商品を推奨しています(*2)。また、化粧品販売のSephora(セフォラ)社は、顧客がオンラインで記入するビューティプロファイル(髪や肌の情報など)、センチメントデータ(商品に対する感情分析)と、過去の購買履歴などを組み合わせ、個々の顧客にパーソナライズした商品の推薦や提案を行っています(*3)。

 

機械学習技術の進化と多様化によって、ゼロパーティデータとファーストパーティデータの統合モデルもさまざまなものが開発されつつあります。今後はEC事業者の目的に合ったデータ活用の実現が進んでいくことでしょう。

 

▲ユーザーからゼロパーティデータを得るためには、相応のメリットを提示することが重要

 

3. マイクロモーメント・マーケティング – リアルタイムでの顧客ニーズ対応

マイクロモーメントは、消費者が「今すぐ知りたい」「今すぐ買いたい」など、瞬時に行動を起こす小さなタイミングのことです。Googleが提唱したこの概念は、2024年にさらに進化し、企業がリアルタイムでユーザーのニーズに応えるマーケティングとして広がりを見せつつあります。

 

ユーザーのマイクロモーメントは、大きく4つに分類され、それぞれに効果的な施策があります。

 

I want to know

ユーザーは情報や質問に対する答えを求めています。FAQの充実だけでなく、いかに求める回答にいち早く到達させるかがポイントです。コンテンツレコメンドやチャットサポートがソリューションとなります。

 

I want to go

最寄りの店舗の場所や、その場所に求めている商品や体験があるかどうかをいち早く提示することが求められます。デバイスの位置情報を利用した検索機能や、検索エンジンのローカルSEOなどがソリューションです。

 

I want to do

ユーザーは、自分のやりたいことがすぐできるようになる情報を求めています。たとえば、イベントに合わせた衣服の選び方、海水浴を楽しむ方法などです。リアルタイムニーズ分析に基づくレコメンドは、この欲求に対する回答となるでしょう

 

I want to buy

「いまテレビで見た商品を買いたい」といった衝動的な購買欲求や、「1万円以下のスマートフォンが必要」という条件づけられた購買欲求に応えることが求められます。リアルタイムレコメンドや接客ツールの活用が効果的です。

 

ユーザーのマイクロモーメントニーズに対応するマーケティングサービスは、スーパーマーケットやインテリアストア、コーヒーチェーンなど、実店舗と連動したECサービスを持つ企業が導入を進めています。今後は、後述のプレディクティブ(予測)AI技術も取り入れることで、より幅広いニーズに対応したソリューションの開発が進んでいくことでしょう。

 

例えば、米国のスーパーマーケットRedlands Ranch Marketは、消費者が店舗に訪れる前に欲しい商品の在庫状況をリアルタイムで確認できるシステムを導入し、来店時の体験をスムーズにしています(*4)。このシステムにレコメンドエンジンを組み合わせれば、単に在庫確認ができるというだけでなく、在庫が無い場合には代案となる商品を提案し、来店のモチベーションを維持することも可能になります。

 

▲AIの処理速度が向上した結果、ユーザーの「いま」の欲求にスマートに応えられるようになった

 

4. プレディクティブAI – 顧客ニーズを先読みする技術

プレディクティブ(予測)AIとは、消費者の行動や過去のデータを分析して、将来的なニーズや行動を予測する技術です。かつてはビジネスインテリジェンスなどと呼ばれていた領域ですが、ジェネレーティブ(生成)AIのために開発された技術を取り込むことによって、その性能が進化しつつあります。

 

この分野でいち早く導入が進んでいるものは、AIを用いたパーソナライズド・レコメンデーションです。ゼロパーティデータの項でも説明したとおり、AIアルゴリズムに基づくニーズ予測によって個々のユーザーに最適な商品やコンテンツを推奨するシステムは、数百社以上の大手ECサイトで既に稼働しています。

 

しかし、プレディクティブAIの用途はレコメンドにとどまらず、需要予測や在庫管理の精緻化や、ダイナミックプライシング、顧客離脱予測とリテンション施策、サプライチェーンの最適化などにも効果を発揮していくことでしょう。また、AIによる自動化によって、専門家による都度の分析作業を必要とせず、常に最適な予測が実現できるようになることでしょう。既に米国を中心としたいくつかの企業が、プレディクティブAIによる分析ツールをリリースしています。

 

レコメンドエンジン 事例集

▲AIを用いたパーソナライズド・レコメンドの事例資料

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まとめ

以上、今後のトレンドとなっていくことが見込まれる4つのマーケティングキーワードについて、概要を説明しました。ポイントは、4つのキーワードのいずれも、AI技術が重要な役割を担っていることです。

 

ゼロパーティデータの活用やマイクロモーメント・マーケティングなどは、概念としては以前からあったものの、技術が追いつかずになかなか実装が進んでいませんでした。しかし、ニューラルネットワークからディープラーニング、生成AIに至る一連のAIブームによって開発された技術を援用することで、これらは現実的なサービスとして普及しようとしています。

 

この4つのキーワードにとどまらず、他の停滞気味だったマーケティングソリューションも、AIによって大きな進化を果たす可能性があります。ここ数年のAIブームが本当の意味でECを変えていくのは、これからです。

 

 


*脚注

(1) https://www.voguebusiness.com/story/technology/how-vestiaire-is-improving-fashion-treasure-hunts-with-ai

(2) https://www.linkedin.com/pulse/rise-zero-party-data-what-means-marketers-2024-salezshark-9vbhc

(3) https://www.bain.com/insights/sephora-the-beauty-of-customer-insights/

(4) https://creative7designs.com/create-effective-micro-moments-in-marketing/

 

 

(文責:園田 真悟)



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