マーケティングにおける「ジャムの法則」とは? – 消費者を決断疲れから救おう!
20種を超えるフレーバーがあるジャムと、数種類のフレーバーしかないジャム。どちらが売れると思いますか? 心理学の実験の洞察をもとに、膨大な商品を表示するECサイトで、顧客をどのように選択から購入の判断に導くことができるか考察しました。
▲商品が選ばれるためには、比較対象となる商品の“数”も重要
【INDEX】
・ジャムの法則とは
・実際にどのような実験が行われたのか
・選択の自由と、消費者の決断疲れ
・ジャムの法則のデジタルコマースへの応用
・パーソナライズによる選択肢のサポート
・おわりに
ジャムの法則とは?
「ジャムの法則」とは、選択肢が増えるほど、消費者は意思決定が難しくなるという人間の心理を説明したもので、マーケティングや行動経済学の用語としても知られています。ECの世界では、CTA(ユーザーによる商品の選択や、コンテンツの閲覧)を効果的に促すための、重要な概念となっています。
ジャムの法則は、日本では「法則」と呼ばれますが、英語圏では “Jam Study” や “Jam Experiment” として知られています。コロンビア大学の心理学者アイエンガー教授が行ったもので、2000年にスタンフォード大学のリーパー教授と連名で発表されています。
実際にどのような実験が行われたのか
この実験では、雑貨店で客に24種類のジャムを提示した場合と、6種類のジャムを提示した場合を比較しました。24種類のジャムを見せられた客の60%が商品に関心を示し、そのうち平均2種類を味見したうえで、3%の客が実際に購入しました。
一方、6種類のジャムを見せられた客は、40%しか商品に関心を示さなかったものの、そのうち平均2種類を味見したうえ、なんと30%の客が実際にジャムを購入したのです。
ここから推測できるのは、大量の選択肢は、結果的に消費者を委縮させてしまう、ということです。24種類のジャムに関心を持った客は、自分の選択に自信が持てなかったり、選ぶ作業を負担に感じてしまったりして、多くの客が買うのをあきらめてしまったと考えられます。一方で、6つの商品に関心を持った客の多くは、負担を感じることなく購入することができました。
選択の自由と、消費者の決断疲れ
一般的に、人により多くの「選択の自由」を与えることはよいことだと考えられています。実際、ジャムの実験ではより多くの選択肢を示した方が、客を引き付けることができました。しかし、選択という行為は人間に思考力を消費させ、また時間を奪います。自分の判断によって後悔することにならないだろうかという、不安を抱かせることにもなります。特にECの現場では、隙間時間にスピーディな買い物を行うユーザーも多く、選択肢の多さは顧客体験を下げることにつながりかねません。
選択肢の多さが、消費者にいわゆる“決断疲れ”をもたらし、「選ばない」という行動を引き起こしてしまうのなら、選択肢を絞るなど、何らかの手段で選択しやすい環境を作る必要があります。
▲ 消費者は自由に選べるからこそ、選ぶことに疲れてしまう
ジャムの法則のデジタルコマースへの応用
ジャムの法則が信頼に値するものだとしても、実際のECサイトやコンテンツサービスで、カテゴリーごとの商品点数を6以下にするといった行為は、非現実的です。たとえば、映画の配信サイトで、「恋愛」も「ホラー」も「SF」も、どれも6種類の作品の中からしか選べないとしたら、どうでしょうか? むしろ選択肢の少なさから、離反するユーザーが増えるかもしれません。
ECサイトにおけるジャムの法則の現実的な応用方法は、サイト内に大量の選択肢を揃えつつ、その中から「選びやすい」商品をいくつか抽出して、ユーザーの負担を軽減するところにあると言えそうです。
たとえば、大手動画配信サービスでは、TV・PC画面用のトップページ(選択画面)に大量のコンテンツをタイル状に敷き詰めています。ただ、そのコンテンツは1行ごとにカテゴライズされており、1カテゴリーあたりのコンテンツ表示数はおおむね6点程度に抑えられています。
この画面構成は、敷き詰められたコンテンツの写真で「大量のコンテンツから、自由に選べる」という充足感を視覚的に与えると同時に、適切なカテゴライズによってコンテンツを選ぶ負担を軽減することに成功しています。ユーザーは、トップページから遷移することなく観たいカテゴリーのなかからサッと1点を選ぶこともできますし、期待できるコンテンツがそこになければ、カテゴリーページに遷移して大量のコンテンツを探すこともできます。
同様の手法は、物販系ECサイトでも効果が期待できます。ポイントは、“トップページで”適切な量の選択肢を見せることです。ユーザーにサイト内検索やカテゴリーページへの遷移というアクションを求めず、その場で観たいと思えるコンテンツが選べるため、ユーザーの離脱のリスクは極小化され、コンバージョン率の向上が期待できます。
▲ 一度に選べる商品の数を制御し、“選びやすい”商品を優先的に表示する仕組みを設ける
パーソナライズによる選択肢のサポート
上記の手法を導入にあたっての、もうひとつのポイントは、選択肢のパーソナライズです。
コンテンツ配信サービスだけでなく、Amazonのような大手ECサイトでは、数点に絞ったカテゴリーごとの商品表示を、更にレコメンドエンジンによってパーソナライズし、ユーザーにとって選びやすいアイテムを優先的に表示するようにしています。
レコメンドエンジンというと、ある商品の詳細画面の下に「こんな商品もおすすめ」と表示されるものと思われがちですが、ユーザーが繰り返し利用することが多いECサイトでは、トップページなどで、大量にあるアイテムの中から優先的に表示するものを絞り込むために利用されています。
たとえば、「恋愛」「SF」といったジャンルの中でも、ユーザーによって好みの傾向が異なったり、トレンドによって観られる作品の傾向が変わってきたりします。レコメンドエンジンでユーザーの過去の選択の傾向を分析し、個人の好みやトレンドに応じて「選びやすいアイテム」を絞り込んで表示することで、ユーザーのクリックを促すことができます。
この手法は、トップページだけでなく、サイト内検索画面の結果表示でも有効です。検索結果が大量にある場合、単に関連度順や新着順に商品を並べるのではなく、ファーストビューに特におすすめのアイテムを数点優先して表示することで、ユーザーの商品探しの苦労をやわらげ、CTAを促すことができます。
おわりに
ジャムの法則は購入へ至る顧客心理に関する重要な洞察を与えてくれますが、少数の選択肢を提示したほうが、多数の選択肢を提示した場合より必ずコンバージョンが良くなるわけではありません。まして、選択肢の数は6が常に適切というわけではありません。例に挙げた動画配信サイトも、TV画面のトップページとスマートフォンのトップページでは、表示されるコンテンツ数には違いがあります。
ユーザーの選択疲れを軽減し、商品の購入率、コンテンツの閲覧率を向上させるために、どの程度の商品を表示するべきなのかは、アイエンガーが実際に雑貨店で実験を行ったように、企業ごとにABテストを行い、決定していくとよいでしょう。
(文責:園田 真悟)
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