マーケティング/広報担当者が読むべきおすすめ書籍3選
【INDEX】
・マーケターは生成AIに何を期待すべきなのか 『生成AIで世界はこう変わる』
・広報の具体的な戦略を豊富な事例から読み解く 『広報の仕掛け人たち – PRのプロフェッショナルはどう動いたか』
・その前提は正しいか?エビデンスベースドマーケティングの話題書 『戦略ごっこ―マーケティング以前の問題』
AIの進化はビジネスに多大な影響を与え、今後も与え続けることが予想されます。
ビジネスを取り巻く環境が激変する中、自分はついていけているだろうか?そんな懸念を抱く人も多いはずです。
毎日いろいろなビジネス記事や情報が細切れに入ってきますが、目立つニュースやメディアの作るトレンドを追いかけるだけでは、情報に振り回され中長期的な視座は得られません。
少し時間を作って自分の知識を振り返ったり、最新の情報を読書で補ってみてはいかがでしょうか。
シルバーエッグ・テクノロジーから、マーケティングや広報担当者へおすすめする書籍を、定番書から話題書まで3冊ご紹介します。
「生成AI」「広報PR」「エビデンスベースド」に関する3冊
マーケターは生成AIに何を期待すべきなのか
今井翔太『生成AIで世界はこう変わる』SBクリエイティブ, 2024
本書は日本のAIの研究者、今井翔太氏による、生成AIの解説書です。急速に発展し続ける生成AI技術について俯瞰し、歴史的な意義や使われている技術、今後社会に与えるであろうインパクトが、コンパクトにまとめられています。
生成AIのブームの中で、私たちはAIに関するさまざまな断片的な情報に接しています。ChatGPTや、その技術が使われているMicrosoft Copilotによる文章生成や画像生成を使ってみて、そのインパクトに圧倒された人は多いはずです。関連するビジネス書や解説記事も大量に発行され、生成AIの進化と絡めて「人間の知能を超えた超AIの発現がシンギュラリティを引き起こし、社会を一変させる」といった派手な言説も見られるようになりました。
本書もタイトルにこそ「世界が変わる」という大きな言葉が使われており、AIに対し楽観的な論調が貫かれていますが、実はその中身は、他の書籍に比べるとかなり抑制的です。
生成AIによって引き起こされた絵画や音楽の変革や、医療診断の高度化といった事象は一通り網羅されていますが、「だから、今後はこんな社会になる」「こんな仕事はなくなる」といった、断定調で期待や不安を煽る書き方はされていません。巻末につけられた生成AI研究の第一人者松尾豊教授(東京大学)へのインタビューは、あまりに抑制的かつドライな内容で、拍子抜けするかもしれません。
しかし、読者が学ぶべきは、まさにその抑制された姿勢ではないでしょうか。本書で平易に解説されているように、現状の生成AIは穴埋め問題を回答するようなかたちで既知の情報からそれらしいものを推測する限定的なシステムであって、未来予測のような、未知の要素を大量に含む回答を簡単に行える魔法の装置ではありません。
本書に書かれた「アイディアだしツールとしてのChatGPTの利用」は、その点とても現実的です。AIに生成させたものを採用するかどうかは人間が決定すべきであり、また、最終成果物はあくまで人間が作り込むべきであるという、生成AIの使い方のポイントは、生成AIの技術やその限界を見据えており、他の多くのAI活用法にも共通する原則と言ってよいでしょう。
専門用語をできるだけ排し、AI技術の成り立ちとそのロジックを解説している本書は、生成AIの現状を冷静に認識するために役に立ちます。情報のアップデートを続けるためにも、その基礎をまとめている本書は、ありがたい存在です。
広報の具体的な戦略を豊富な事例から読み解く
公益社団法人日本パブリックリレーションズ協会 編『広報の仕掛け人たち – PRのプロフェッショナルはどう動いたか』宣伝会議, 2016
情報過多の時代において消費者や企業の顧客、ステークホルダーは、信頼できる情報を求めるようになりました。また、グローバル化やデジタル化が進む中で、市場間の競争が激しくなっています。このような環境下で、自社のブランドやメッセージを差別化し、顧客やステークホルダーに訴求していくことが必要とされ、広報/PRの重要性が以前よりも増してきました。
広報/PRと聞くと、プレスリリースの配信や記者会見、そして大規模な消費者向けPRイベントの企画/実施など、華やかなイメージが先行することが少なくありません。しかし、それは業務のごく一部に過ぎず、実際のプロジェクトの成功は、広報/PR担当者が日々試行錯誤し、努力を重ねる姿勢から生まれた成果です。
本書は、広報・PRに関する研究、教育、啓発を行う「日本パブリックリレーションズ協会(以下、日本PR協会)」によって編集されました。日本PR協会は、2007年に「PRプランナー認定資格制度」を導入し、これまでに2,000名を超える「公認PRプランナー」を輩出しています。
本書では、外食産業から食品メーカー、海外観光局、自治体/行政、外資系B2B企業など、幅広い業種にまたがる9つのプロジェクトが取り上げられています。特に興味深いのは、海外観光局の事例で、従来の“キャッチコピー”からの脱却と新たなコピーおよびターゲットへの転換を促す施策に焦点を当て、広報/PR担当者とPR代理店が協力して成功を収めた点です。古くから定着している概念を変えるには、新しいアプローチで人々の関心を引くことが不可欠です。古典的な手法にこだわらず、新しい試みに積極的に取り組む姿勢が素晴らしいものでした。
PR業界や広報活動に携わる方々、または今後その世界に飛び込み、広報/PRの力で何かを成し遂げたいと期待をしている方にぜひ読んでいただきたいです。
その前提は正しいか?エビデンスベースドマーケティングの話題書
芹澤 連『戦略ごっこ―マーケティング以前の問題』日経BP, 2023
著者の芹澤連氏は、マーケティングサイエンティストとして「日経クロストレンド」等Webメディアで連載しており、前作『”未”顧客理解』でもすでに馴染みのある方も多いのではないでしょうか。
「戦略ごっこ」というタイトルは、人によっては挑発的に感じるかもしれません。多くのマーケターが講じている戦略を「ごっこ」として揶揄しているからです。
今日マーケターは、既存顧客やヘビーユーザーの育成、ROIの向上、ブランドの差別化といったことを当たり前のごとく重視しています。これに対して本書は、未顧客やライトユーザーに対するパブリシティやマス・マーケティング広告の重要性を再認識させる内容となっており、その背景には、コトラーに対立的なオーストラリアのアレンバーグ・バス研究所ないし『ブランディングの科学』で知られるバイロン・シャープの影響があります。
学問的なことはさておき、挑発的なタイトルではありますが、本書は必ずしも特定のマーケティング理論の批判が主要なテーマではありません。現行の戦略で問題なく成果が出ている人ならば本書は不要です。しかし、もし現行のやり方で「何かがうまくいっていない」、従来通りの方法では「”成長の踊り場” から抜け出せない」と感じているならば、一読の価値があるかもしれません。
本書では「WHO」「WHAT」「HOW」の観点から、消費者行動(第1部)、商品・価格(第2部)、広告コミュニケーション(第3部)をテーマに、広く前提となっている理論やフレームワークの妥当性を、豊富な論文やデータを元に検討しています。
例えば「ROIだと思って見ている指標は本当に役に立つのか?」「転換”率”の高い潜在層にのみ広告投資を絞っているが、その方法で実際に販売”量”(売上高)を増やしていくことはできるのか」といったことを改めて問いなおします。
「n=1分析」や「ファン化」といった流行りの手法や普及しているフレームワークをベースに論理的に戦略を立てているにもかかわらず、「思うように売上げ成果に繋がらない」ならば、その手法の適正やデータの正しさそのものを見直さねばなりません。そうした岐路に立っている人には、発想の転換の糸口を見つけたりマーケティングの視野を拡げるためのおすすめの1冊と言えます。
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