トム・フォーリーが語る、生成AIのECビジネスへのインパクト


ユーザーの投げかけた言葉に対して人間的な文章を生成するChat GPT、ユーザーの命令文に応じてあたかも人間が描いたような画像を生み出すDALL·Eなど、生成AI(ジェネレーティブAI)と呼ばれるツールの登場は、2022年から2023年のITトレンドを席巻しました。

 

これらの生成AIツールは、2017年に発表されたTransformerと呼ばれる自然言語処理に関する機械学習技術を基盤としています。大量のテキストを学習させることでこの方法論は「大規模言語モデル(LLM)」として広く知られるようになっています。シルバーエッグ・テクノロジーのCEOであり、自らもテクノロジストとして長年AI研究に携わってきたトーマス・フォーリーが、生成AIと大規模言語モデルがもたらすECへのビジネスインパクトについて、6つのキーファクターを紹介します。

 


 

シルバーエッグ・テクノロジー株式会社
代表取締役社長 & CEO
トーマス・アクイナス・フォーリー

 

生成AIと大規模言語モデルの技術的ブレークスルーは、今後ECなどのオンラインカスタマーサービスの分野、特にパーソナライズド・マーケティングの領域で、確実に変革をもたらしていくことでしょう。

 

1. 創造的な提案

生成AIは人間が過去に作った大量のテキストを学習しており、ユーザーの言葉による指示(プロンプト)や事前に設けられたルールに応じて、そこから新しいテキストや画像を「創造」することができます。同じように、生成AIはECの分野で個々の顧客のニーズに応じて創造的な提案ができるようになるかもしれません。アパレルの分野を例にとれば、顧客のリクエストや好まれるテイストから、新たな服のコーディネートやスタイリングを提案できるでしょう。衣装をデザインすることさえできるかもしれません。

 

2. ソーシャルリスニングの自動化

大規模言語モデルと生成AIによる高度なテキスト理解能力によって、事業者はソーシャルリスニング(SNS分析など)を自動化し、より高速・高精度なトレンド検出ができるようになるでしょう。また、AIによって自動化されたインフルエンサーのボットは、不満を持つ顧客をなだめ、ファンを開拓することができるようになります。

 

3. マーケティングリサーチ

大規模言語モデルがテキストの構文を理解することを可能にする「アテンション」メカニズムは、それまでのモデルに比べ高精度なだけでなく、高速であるという特長があります。大規模言語モデルを使ったサービスは、企業が持つ膨大、かつ変化し続ける顧客データやコンテクストデータのなかから、意味のある特徴やビジネスの手がかりを探し、タイムリーで適切な提案をすることができるようになるでしょう。

 

この画像はChat GPT+Dall.Eによって生成されました

▲ Chat GPT + DALL·E で生成した、AIショッピングアシスタントのイメージ

 

4. 継続的なパーソナライズド・コミュニケーション

現在、MAやレコメンドエンジンなどで実現しているパーソナライズされたカスタマーエクスペリエンスは、単純なワンショットの施策の積み上げであるケースが多く見られます。大規模言語モデル/生成AIサービスを取り入れることで、それらはより会話的、反復的で切れ目のないものに進化していくでしょう。 レコメンデーションは良くある「あなたへのおすすめ」表示枠や「5段階評価」などの決まりきったフォーマットではなく、デジタル・エクスペリエンス全体にさりげなく組み込まれるようになり、サイトはパーソナライゼーションを中心に設計・構築されるようになります。特にモバイル領域では、UI/UXもこの変化に追随していくでしょう。SNSやショート動画サービス、マッチングサービスのようなパーソナライズされたストリームは、ユーザー体験の新しい標準になる可能性を秘めています。

 

5. コンシュルジュ型サービス

消費者が商品選びで抱える課題は、知識です。ファッションに関する背景知識があれば、トレンドを賢く取り入れ、自分にあった着こなしができるでしょう。ワインの産地や品種に関する知識があれば、目的に合った銘柄を選ぶことが出来るはずです。大規模言語モデルを用いたサービスは、ユーザーの知識を補強するために使えます。ECなどのオンラインサービス上では、AIが常識的な推論に基づいたより人間的な提案をするようになるでしょう。また、ニュアンスに富んだ提案を最適なタイミングで行うことで、ユーザーの判断の後押しすることができるようにもなります。オンラインサービスはますますコンシェルジュやパーソナルショッパー(ショッピングアシスタント)のようになっていくでしょう。

 

6. アイテムの分析・分類

大規模言語モデルがベースにしているエンベディング(埋め込み)という技法は、単語や文を数学的に定義された空間に配置し、その位置関係から要素同士の関係性を定義するものです。この技法は、アイテム(商品やコンテンツ)の類似性分析としてすでにデファクトとなっています。例えば、レコメンドエンジンで利用されている協調フィルタリングという手法は、ユーザーの行動からアイテムの類似性を分析し、単純な属性情報の分類によるレコメンドを上回る成果を出しています。エンベディングによるテキスト、画像、商品、その他さまざまな要素の分析は、従来のカテゴライゼーションとフィルタリングの方法論に取って代わり、より精度の高い商品やコンテンツの理解を実現していくでしょう。

 


 

以上、生成AIと大規模言語モデルがデジタルマーケティング分野でもたらすだろう変化の要素をまとめました。

 

これから実際起こる変化の多くは、実は現在のマーケティング手法と地続きの小さなものかもしれません。しかし、小さな変化の積み重ねが全体として大きな変革を形作るというのは、四半世紀前のインターネットとオンラインビジネスの普及期に我々が体験したことです。この先、どのような変化が起き、ビジネスや社会がどう変わっていくかは、生成AIというツールを使う我々の発想と行動力にかかっています。

 

 



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