行動情報とAIによるカスタマージャーニーの進化


顧客を理解し将来の行動を予測するために重要な行動情報。オンラインビジネスの活性化には、行動情報を正しく理解することが重要です。

そもそも行動情報って何?どんな特徴があるのか? 何に使えるのか?この記事では、行動情報の基本を解説します。

 

※ 本記事は2023年6月1日に実施し、大きな反響が寄せられたウェビナー「顧客は何を求めている? 行動情報とAIを使ったカスタマージャーニーの再構築の一部を記事化したものです。記事末尾にて講演資料もご紹介しています。

 

INDEX
・行動情報の特徴
・行動情報 活用における課題
・分析がマーケターの自己満足になっている
・単純なトリガー型施策しかできない
・行動情報をもとに効果を上げるためのゴール
・さらに詳しく知りたい人のために


行動情報とは?

行動情報とは、ユーザー(個人またはグループ)の購入、消費、ロイヤリティに関わる、あらゆる「ふるまい」(behavior)に関するデータを指します。ここでは特にECにおける、ウェブサイトやアプリといったオンライン上の行動情報について扱います。

 

ECにおける行動情報には、具体的に次のようなものがあります。

 

・サイトアクセス、ページ閲覧、スクロール、離脱などのイベント

・クリック、ブックマーク、「いいね」などのエンゲージメント

・購入、フォーム入力、メール開封、LINEの既読などのコンバージョン

 

これらの多くは、ECサイトに導入されているマーケティングがログとして自動的に蓄積している情報です。多数のユーザーのログを解析し、統計的な傾向を発見したり、ユニークな行動をするユーザー群を発見したりするユーザー行動情報の分析(User Behavior Analysis)は、サイト改善、売上やロイヤリティの向上、商品開発に役立つものとして、重要な意義を担っています。

 

 

行動情報の特徴

マーケティング視点で見ると、行動情報には、次のような特徴があります。


リアルタイムで変化する
:ユーザー属性情報(年齢や趣味など)と違い、行動情報はユーザーがサイトにアクセスするごとに蓄積されるため、動的に変化するユーザー傾向を捉えることができる

分析しやすい: レビューやコメントのような定性的な情報の分析と比較して、データ量が多く、また構造化されているため、機械的な統計分析に適している

データに「ウソ」が出にくい: ユーザーが任意で入力する個人情報やレビューなどは、偽装されたり無意味な情報が混在しがちだが、行動情報はユーザーの無意識的な行動も含めた生のデータであり、分析の精度を上げやすい

 

ユーザー行動情報分析が進化する以前は、もっぱら静的な属性(デモグラフィック)情報やマーケットの統計情報をベースにした施策が一定の成果を上げていました。ペルソナを設定してキャンペーンを打ったり、セグメントに応じてコンテンツを出し分けるといったおなじみの手法です。

 

現在ではこれに動的な行動情報分析を加えることで、ユーザーを一人ひとりを「個人単位」で分析し、「いま」のニーズに迫ることができます。

 

たとえば、1年前に入力されたアンケート回答はもちろん有益ですが、今も1年前と同じ価値を持っているわけではありません。また、性別が「女性」だからといって、「その」ユーザーがメンズ商品を買わないとは限りません。一週間前に何をいくら購入したか? 昨日はどんなコンテンツを閲覧したか? ――こうした行動情報は属性情報以上に信頼性が高く、個々のユーザーのそのときの好みやライフスタイルを正確に捉えるのに役立ちます。

 

 

行動情報 活用における課題

行動情報とはダイナミックでOne to Oneなデータであり、行動情報分析の強みはそこにあります。しかし、この強みはマーケターが計画的に行うマーケティング分析とは相反する特徴と言えます。

 

行動情報を活用するにあたって、2つの課題があります。

 

分析がマーケターの自己満足になっている

マーケティングプラットフォームに搭載された分析ツールの充実によって、マーケターは行動情報を使って、様々な分析ができるようになりました。しかし、そうした分析レポートの多くは、単にデータを取得した時点での傾向を示すだけで、使い物になりません。行動情報はリアルタイムで変化し続けるため、ある時点での分析はすぐに陳腐化してしまうのです。

 

日、時間、分単位で刻々と変化するユーザー行動をある時点で切り取り静的なレポートを作成し、そこから施策を講じても、それはすでに「いま」の傾向に合ったものではありません。たとえば、テレビでヨーグルトがダイエットに効果的と紹介された後、急にそのヨーグルトを扱うサイトのアクセスが増えるということは少なくありません。しかし、ユーザーの閲覧履歴や購入履歴の分析によってヨーグルトの販売傾向の変化を掴んだとしても、そこから施策を考えては遅いのです。

 

その分析は、マーケターに「分析できた」という満足感を与えるだけのものになってしまいます。

 

単純なトリガー型施策しかできない

「個人のニーズ」にOne to One に迫るためには、ユーザー一つ一つの行動を「トリガー」として次のフローを設定する「シナリオ」に落とし込む必要があります。シナリオは分岐を多く設定することで、ユーザー一人ひとりの複雑な行動に対して、よりパーソナライズされた顧客体験を届けることができます。

 

しかし、実際には単純なトリガー型の対応しか実現できないケースが多くあります。単純すぎるシナリオは、ユーザーをわずかなトリガーをベースとした集合として扱っているにすぎません。これでは結局のところ、セグメント単位で誰にでも同じ施策を打っている従来的な顧客体験と大差がありません。

 

こうした難しさは、一つ一つの行動情報は単体ではトリガーとしての価値に乏しいということ、またシナリオの作りこみは非常に労力がかかることに起因しています。

 

 

行動情報をもとに効果を上げるためのゴール

それでは、行動情報を活用してコンバージョンや売上を上げるためには、究極的にはどんな方法がいいのでしょうか。

 

上述の内容を振り返ると、ユーザー行動情報を活用する利点は、「ユーザー一人ひとりを『個人単位』で分析し、『いま』のニーズに迫ることができる」というものでした。しかし、その活用を人間の手にゆだねる場合、「分析」や「施策遂行」に時間がかかり、リアルタイム性が損なわれます。また「施策」の遂行に必要なシナリオを、ユーザー一人ひとりに合わせて構築することも現実的には困難です。

 

これに対して、AIの活用は行動情報をもとに効果を上げるための一つの到達点と言えます。AIは蓄積されたデータを瞬時に「分析」し、複雑なシナリオを分岐させてリアルタイムでニーズに合わせた「施策遂行」を行うことができます。

 

AIによる行動情報活用の例は、メール配信やサイト内検索、Web接客などさまざまなツールで見ることができますが、ここではサイトに設置する「あなたへのおすすめ」機能、レコメンドエンジンを例に挙げます。

 

AIを搭載したレコメンドエンジンは、サイト上でユーザー行動を収集・分析し、最適な商品やアイテムの提案をします。複雑に分岐したシナリオの代わりに機械学習アルゴリズムを用い、いまサイトにアクセスしているユーザーの行動履歴と、他のユーザーの行動履歴の相関関係を割り出して、その瞬間、そのユーザーに対して最適なアイテム(商品やコンテンツ)を提案することができます。

 

それだけではなく、AIはその提案をユーザーがどう受け取ったかを再学習し、より精度を高めた提案を継続します。AIが学習を深めることで、顧客のニーズを予測し、最適な提案をリアルタイムに返すことができるのです。

 

 

オンラインビジネスで行動情報を活用するうえで重要なのは、「分析を行うこと」自体を目的化しないことです。マーケターがどれだけ複雑な分析を行い、有意な結果を得られたとしても、分析に時間をかけた分だけその結果は有効性を失い、施策遂行の段階では的外れな結果をもたらすリスクが高まります。

 

行動情報の活用の勘どころは、分析と施策遂行の自動化にあります。人間の代わりに絶えず分析を続けるAIと、その分析結果をリアルタイムで施策に反映できるシステマティックなツールが欠かせません。この仕組みを整えるには労力やコストが必要ですが、いちど完成すれば、ユーザーのトレンドの変化に反応して、売上に繋がる有効な施策を打ち続けてくれます。AI搭載型のレコメンドエンジンはその好例と言えるでしょう。

 

 

さらに詳しく知りたい人のために

行動情報は、ユーザー一人ひとりの傾向をリアルタイムに捉え、未来を予測するのに非常に有益だということ、また、行動情報のデータ上の特徴がAIと非常に相性がいいことが理解いただけたと思います。

 

本ブログはウェビナー「顧客は何を求めている? 行動情報とAIを使ったカスタマージャーニーの再構築」の Part 1 をもとにまとめたものです。Part 2 では「行動情報の活用例としての『AIレコメンドエンジン』」として、AIレコメンドエンジンの行動情報処理や技術、活用例について具体的に扱っています。

 

下記フォームより、講演資料をダウンロードできます。ぜひお役立てください。

 

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