ECはショート動画サービスに何を学べるのか? Z世代の顧客体験と、その未来


2020年代に入り、日本でもZ世代に向けたマーケティングがしきりに話題にされるようになってきました。デジタルネイティブである彼らのライフスタイルを理解し、新市場を拓いていく手がかりが求められています。

 

しかし、彼らの消費行動を俯瞰すると、実はそれは世代的な特徴ではなく、インターネット・Web技術の成熟によってもたらされた、世代共通の行動変容であると言えそうです。

 

ECは「TikTok」に何を学べるのか?

 

Z世代に対応したデジタルマーケティングは、全世代でのEC売上を活性化する可能性を秘めています。ショート動画サービスの成功を例に、新世代のECサービス構築のポイントを見ていきましょう。

 

【INDEX】

「Z世代」とは何か?
「Z世代」で区切ることは重要なのか?
TikTokに見る、新たな接客体験の基本2軸
AIで「見たい動画」を見せる技術
ECサイトは、TikTokから何を学ぶべきか?
AI技術はある。求められるのはUI/UX
まとめ:AI、UI、コンテンツの3つが、新世代のECを作っていく


「Z世代」とは何か?

Googleの検索人気度を調べるGoogle トレンドによると、「Z世代」(Generation Z)という言葉が注目され始めたのは、米国では2015年頃からです。検索件数は徐々に上がり、2019年に最も活発に検索されていました。一方日本では、2021年になって突如として検索数が跳ね上がっており、今も続いています。

 

米国では、Generation Zは連綿と続く世代論の一環だったのですが、日本ではその一部分が切り出され、突如として現れた新人類のように扱われている節があります。理由は多々考えられますが、新型コロナウイルスによる行動制限で、ネットショップの利用やZoom Meetingなどデジタル対応を強いられた旧い世代の人々が、デジタルネイティブである彼らの生き方に注目しだした、という側面も強いでしょう。

 

デジタルネイティブであること。まさにそれが、Z世代を象徴する言葉になっています。日本のZ世代の特徴には、下記のようなものがあります。

 

1. インターネット・Webの存在を日常の一部と認識しており、常に繋がっている
2. 人と人とのコミュニケーションについて、リアルかネットかの区別をしない
3. 情報に接する機会が多い分、時間あたりの効率性を重視する(タイムパフォーマンス)
4. 画一的なブランド信仰が薄く、個人の好みへの傾倒が強い
5. 他者を受け容れ、協調することに長けている(インクルージョン)

 

これらの特徴の多くは、インターネット関連技術の成熟によって引き起こされたものと言えます。モバイルでの高速通信が当たり前となり、またWeb技術の進化で動画を中心としたリッチコンテンツの利用できる環境が定着したことが、Z世代のコミュニケーションやショッピングなどの行動様式を形作っています。

 

また、物心ついた頃から、TVや雑誌などのマスメディアでなく、ネット上の細分化された情報に接してきたことが、多様性を尊重する行動規範の遠因になっているとも考えられます。たとえば、無数のコンテンツを自由に選べるYouTubeやNetflixのようなサービスが、一人ひとり異なる趣味嗜好を深めていくことを可能にしています。最初から多様であるからこそ、他者を受け容れることにも秀でているのです。

 

 

「Z世代」で区切ることは重要なのか?

Z世代と他の世代の根本的な違いは何か。それは情報への接し方です。旧世代の人々にとって、インターネット・Webは雲の上の図書館のようなもので、自ら情報の森の中を探索し、必要なものを見つける技術が必要でした。しかし新しい世代は、インターネット・Webは水や空気と同じく常に周りにあるもので、絶えず流れ込んでくる情報を取捨選択し、自分に合うものを受け容れることが、行動の基本になっています。

 

しかし、それはZ世代固有のものでしょうか? 違います。インターネットの進化によってもたらされたこの行動様式は、Z世代以降、あらゆる世代が身につけるものとなるでしょう。また、旧い世代に属する人々も、進化したWeb環境に慣れれば、同様の行動を取るはずです。

 

かつて、ラジオの普及によって音楽が「聴きに行くもの」から「常に流れるもの」に変わったように、生活の中に流れ込む多様な情報・コンテンツを取捨選択する生きかたを、あらゆる世代の人々が自然と行うようになるのです。

 

ですから、これからのビジネスを考える上で、「Z世代に対応したマーケティング」というのは、デフォルトのマーケティング手法となっていくでしょう。Z世代に受け入れられるECサービスの構築は、結果的に、万人にとって使いやすいサービスになるはずです

 

 

TikTokに見る、新たな接客体験の基本2軸

では、Z世代を代表とする新世代のデジタルマーケティングに必要なものは何でしょうか? 前述の通り、彼らにとって情報とは「常に流れ込んでくるもの」です。となれば、重要なのは「何を流すか」「どう流すか」に集約されます。

 

「何を流すか」については、情報をランダムに流したり、画一的な広告を何度も流すのではなく、ユーザー一人ひとりにとって価値のある情報(商品やコンテンツ)を選択的に流し、受け入れられやすくする仕組みが必要です。「どう流すか」については、情報を極力ストレスなく選択し、効率よく閲覧できるインターフェイスが求められます。これは、Z世代のタイムパフォーマンス重視にも通じる話です。

 

この、「何を流すか」と「どう流すか」を、どちらも高度なレベルで実現しているのが、様々なSNSプラットフォーマーが参入している「ショート動画サービス」です。

 

マシュー・ブレナンの研究によれば、ショート動画サービスの「何を流すか」の部分はバックエンドの「アルゴリズム型レコメンド」が実現し、「どう流すか」の部分はフロントエンドの全画面ショート動画UI/UXが担っています。

 

ユーザーごとに異なる情報がスクロールしてくるタイムライン構造は、FacebookやTwitterによって定着したものです。しかし、ショート動画サービスは、自分が自発的にフォローしたユーザーの動画だけが流れてくるのではなく、未知のユーザーが投稿した「自分の好みや関心に合う動画」が、次々と流れてきます。動画コンテンツを、AI技術を使いユーザーごとに徹底してパーソナライズし、またスマートフォンでの視聴に最適化してストレスなく閲覧できるようにしたことで、ショート動画サービスはZ世代を代表するデジタルサービスとなりました。

 

AIで「見たい動画」を見せる技術

ショート動画サービスのバックエンド技術は、AIレコメンドエンジンそのものだと言われています。閲覧ユーザー一人ひとりの興味関心によって、ストックされている莫大な数のショート動画から、流すべき動画を刻々と選定していきます。そのアルゴリズムが最も重視するのは、ユーザーが流れてくる動画を見たり、「いいね」をつけたりするインタラクション、つまり行動情報です。

 

ショート動画サービスは、初めて利用するユーザーに対しては最初に登録した「興味のあるカテゴリー」や、運営企業の別サービスの視聴履歴から推測された好みの動画をフィードしますが、次第にAIがどんな動画を見ているか、あるいは見ていないかを学習し、それに即した動画が表示されるようになります。コンテンツの属性情報をベースにしたレコメンド方式よりも、行動情報を学習してレコメンドする方式のほうが、顧客満足度が高まるということは、ショート動画サービス以外のコンテンツサービスや、ECサービスでも実証されています。

 

このレコメンド手法は、そもそもで言えばAmazonやNetflixが採用したレコメンドエンジンの手法と変わりません。根本的な技術は、一般的なECサイトでも商品レコメンドに利用可能なものです。ただ、ショート動画を連続して見せ続けるという目的に特化して、アルゴリズムを高度にカスタマイズし、チューニングした結果、ショート動画サービスはユーザーにとって離れがたいサービスに進化しました。

 

 

ECサイトは、ショート動画サービスから何を学ぶべきか?

ショート動画サービスのレコメンドアルゴリズムの徹底活用は、EC事業者にとっても非常に参考になります。多様な情報が常に流れ込んでくるZ世代のネット環境では、企業は売り出したい商品を広告でPushしても、なかなかユーザーの関心を獲得できません。

 

重要なのは、ユーザーの立場に立って、一人ひとりが好むような商品・情報をパーソナライズして提供し続けることです。一度でもECサイトやアプリを利用してくれたユーザーに対し、個人の好みにあった商品やコンテンツを流し続けることが、結果的にユーザーの信頼を生み、高いコンバージョン率を実現するのです。ショート動画サービスがそうであるように、ECサイトにはECサイトならではの顧客行動パターンがあり、それに適したAIアルゴリズムがあります。最適なアルゴリズムを選び、常に好みやニーズに即したアイテムが「次々と目に飛び込んでくる」環境を作りましょう。

 

注意すべき点もあります。AIレコメンドエンジンがあるからといって、商品だけを大画面でレコメンドしていればよいという訳ではないことです。重要なのは多様性です。商品だけでなく、顧客が自然と接することのできる多数のコンテンツ……例えば、ブランドストーリーや、ライフスタイルの記事や写真、人気店員の書くBlogなど、これまで企業がプロデュースしてきた多様なコンテンツを織り交ぜて、刻々と変化するユーザーの関心に応えていくことが必要です。

 

 

AI技術はある。求められるのはUI/UX

現在商業利用可能な行動情報ベースのレコメンドアルゴリズムは、多数のユーザーの行動傾向を分析し、商品だけでなく、コンテンツを織り交ぜてレコメンドできるようになっています。高度なレコメンドを実現するAI技術は、世界的なプラットフォーマーの専売特許ではなくなっているのです

 

事実、プリンストン大学のデータサイエンティストであるアーヴィンド・ナラヤナンは、彼の所属する研究所のBlog記事で、動画配信サービスのレコメンドエンジンを「ありふれたもの」と言い切っています。彼によれば、ショート動画サービスのイノベーションは、レコメンドで「何を届けるか」以上に、UI/UXで「どう届けるか」を突き詰めた点にあります。

 

動画のようなリッチコンテンツを全画面で表示させ、遅延なくスムーズに見せるサービスは、フロントエンドのアプリやWebサイトのテクニックだけでなく、データベースの高速化、ネットワーク速度の担保など、インフラ技術も巻き込んだ総合力によって実現できます。また、ソーシャルツールなので、クリエイターのコンテンツ投稿を活性化させたり、コンテンツをバイラルで拡散しやすくしたりする仕組みも重要です。

 

ECにおいては、そこまでの仕組みを作るのは困難ですし、また求められていません。ただ、スマホの画面に思い切って最適化し、レコメンドAIの選んだ商品画像やコンテンツがスムーズに流れていくUIは、Z世代以降のユーザーにとって強い訴求力を持つでしょう。

 

ヘッドレスコマースの普及で、商品DBや受発注の仕組みを維持したまま、ユーザーへの画面の見せ方を大胆に、かつスピーディに改善できる環境が整いつつあります。商品やコンテンツを顧客にどう見せるかは、各EC事業者の個性の見せどころです。ECプラットフォーマーやレコメンドAIのプロバイダーと協力し、フロントエンドのUIを磨き込んでいくことが重要です。

 

 

まとめ:AI、UI/UX、コンテンツの3つの改善が、新世代のECを作っていく

デジタルネイティブであるZ世代に最適化されたWeb体験とは、検索ツールなどでユーザーが自分に必要な商品・情報を探す「プル型」ではなく、レコメンドによって商品・情報が最適なユーザーを探す「プッシュ型」の構造への変化を指します。ECサイトも、この構造に倣い、ユーザーが欲しいと思える情報を流し続けることで、顧客満足度を上げていくことができます。

 

そのために必要なのは、ユーザーに対し「何を流すか」を決めるAIレコメンドエンジンと、「どう流すか」の鍵となる優れたUI/UX、そして最後に、豊富なコンテンツです。

 

AIレコメンドエンジンと、UI/UX設計は、ITの専門領域です。高い技能を持つエンジニアや、実績豊富な専門事業者の支援があれば、実現できるでしょう。しかし、いくら高度なAIを実装し、ユニークなUIが完成したからといって、肝心のレコメンドすべき商品やコンテンツがなければ、顧客の関心を引くことはできません。より質の高い商品と、質の高い従業員によってつくられるリッチなプロモーションコンテンツは、Z世代以降の新たなECにおいても、最重要アイテムなのです。

 

(文:園田 真悟)

 

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