書籍3選~そろそろ「アフターコロナ」のマーケティングを考える~


アフターコロナの「先を行く」マーケティング思考

「アフターコロナ」を見据えて、これからのマーケティングに役立つ書籍

 

2020年コロナ感染が始まり、もう4年目に突入してしまいました。
通常、消費者動向の変容は、知らず知らずのうちにじわじわと起きてきますが、周知のとおり、この4年は、外出、行動の自粛などにより、かつてないようなドラスティックな変化が起こりました。私は、いずれ近いうちにコロナ危機は完全に収まると信じていますが、一度変容した消費者の行動様式はもとに戻らず変化をし続けると思います。

そこで、「アフターコロナ」を見据えて、環境、顧客セグメント、顧客コミュニケーションについて一度自分なりに考え直すためにいろいろ文献を読みましたので、今回はそこから3冊の書籍をご紹介します。

 
【INDEX】
1. アフターコロナの環境について 森 泰一朗著『アフターコロナのマーケティング』
2. 顧客セグメントに変化はあるのか?  西口一希著『実践 顧客起点マーケティング』
3. ターゲットした顧客へのメッセージはいままで通りに届くのか? ドナルド・ミラー著『ストーリーブランド戦略』 
 


 

1. アフターコロナの環境について

 
書籍というのは(新書を除く)ある程度、刊行されるのに時間がかかるため、アフターコロナのようなタイトルでピンポイントな内容の本を書くと、出版された頃には、古く感じるか、または予測が外れているというリスクがあります。
ビジネス書ランキングを見ても、ずばりアフターコロナのビジネス環境やマーケティング論を語っているものは多くありません。その中で目に留まったのがこの書籍です。
 

『アフターコロナのマーケティング』森 泰一朗著 翔泳社

コロナを経て、消費者の価値観、行動様式は一変しました。
欲しい商品はどこにでも存在し、流行ったものはすぐにコピーされて大量消費へ流れ、すぐに飽きられる。かつてのそんな消費傾向は次のよう変化しました。

コロナによる生産供給の減少や、移動の制限、経済の縮小などにより、消費者自身が「自分にとって本当に価値のあるものは何だろう。それをどうやって手に入れよう」と深く考えるようになり、サプライヤーからの一方的なマーケティングに対して厳しい選択眼を持つようになりました。実際に一部の嗜好品においては、コロナによる生産力の低下によって、入手が難しくなりました。このような環境変化の中で、欲しいものを入手するにあたっても、単に「コスト」、「利便性」だけではなく、「総合的な満足感」が重視されるようになっています。

本書から得られる最大の学びは 、一度経験した価値観の変化は環境が変わっても継続されるということです。行動制限が緩和され、また消費が一般市場に戻ってきても総合的な満足を求める価値観の流れは変わらないでしょう。具体的に言えば、もう店舗だけ、ネットショップだけの買い物体験や、特定のメディアやチャネルだけに頼ったプロモーションでは、 顧客に満足を維持させることは難しいです。顧客の動向を理解、分析し、すべてのチャネルで接遇できる環境をつくりあげる、OtoOやOMOといった取り組みが特別な言葉の響きでなくなります。マルチなメディア、チャネルをデータ化してスピード感をもって打ち手を施行する経営戦略に根差したマーケティングがすべての規模の企業に必須となります。

また、本書では新しいプレーヤーとして「補完的な生産者」を挙げています。たとえば、Uber Eatsのようなサプライヤーを横断して消費者に物を届けるというビジネスプレーヤーの存在です 。デリバリーのビジネスもコロナを経て急激に成長したカテゴリーですが、物を消費者に直接渡すことができるということで、著者は、新しいマーケティングチャネルとしての可能性を大いに秘めていると述べていますが、これに同意する人は多いでしょう 。
本書は、全般的にきわめてまっとうなことを述べているようにも思えますが、アフターコロナに向けて環境について考え整理するための良書です。
 

2. 顧客セグメントに変化はあるのか?

 
前述のように顧客の消費志向、消費に向かうカスタマージャーニーや購買決定プロセスのありようはコロナによる環境変化の経験を経て、複雑化していると思います。マーケティングで検討される「顧客セグメント」は、年齢、性別、職業、年収、居住地のような単純な属性ではもはや整理、理解ができなくなっています。しかし、決められたマーケティング予算の中では、一番効果的なセグメントに対して施策を打ち、同時にメインターゲットに育て上げることが必要とされます。見込み客、既存顧客の正しいマッピングとそのセグメント理解はマーケティングを進める中でやはり必然となります。以下で紹介する書籍では、顧客を正しく理解するためのフレームワークを学ぶことができます。
 

『たった一人の分析から事業は成長する~実践 顧客起点マーケティング~』西口一希著 翔泳社

 

P&Gやロート製薬、ロクシタンなどFMCG(日用消費財)でマーケティングを統括してきた著者は「カスタマージャーニー」、「購買プロセス」からセグメントを9つに分けて説明をしています。これは、基本的に購買の行動データに基づく分類に視点を置いたフレームワークです。このため、コロナショックのような消費者の行動変容が起こった時にも、このフレームワークはセグメントの特性を理解することに役立ちます。

本書の中で重要視されるポイントは、各セグメントを理解するプロセスとして、そのセグメントにおける特定の顧客(N1)にフォーカスするということです。

マーケティングのセグメント分析として、そのセグメントの人物像を「ペルソナ」として定義していく方法は一般的ですが、「ペルソナ」もまた所詮は抽象論となり、顧客キャラクターの解像度を上げていくには不十分だと著者は説いています。
抽象論ではなくそのセグメントに存在する特定の顧客にインタビューを注意深く行い、そこから、何がそのセグメントに響いているのか、いないのかを見つけ出すことの方が、より「ターゲットの現実像」を浮かび上がらせる結果になると述べています。
確かに、社内で営業担当者が「顧客は、こういう機能が必要だと言っている」という声をまれに聞きますが、だいたい「誰が、いつ、どんな時に言った?」と聞き返すと口ごもってしまうという状況がよくあります。

特定の顧客をN1として仮定することはそれなりに勇気がいりますが、顧客の行動データと心理データに着目してマーケティングを進めていくには、非常に有効な手段の一つではないでしょうか。
とくにFMCG、ファッションといった顧客の気まぐれな購買心理を伴う業種のマーケターは、著者が提唱するフレームワークを一度実践することをお勧めします。
 

3. ターゲットした顧客へのメッセージはいままで通りに届くのか?

 
コロナによる「巣ごもり」によって、スマホ、PCなどデジタル機器に接触している時間が一段と増え、これまで以上に情報の波が押し寄せてきています。昨今、動画によるコンテンツ・マーケティングが主流になってきていますが、そこでも15秒程度のTikTokやYouTube、Facebookのショート動画のように、以前と同じ時間で複数多種類の情報を処理することが消費者側で行われています。
複数多様な情報を脳内で処理するには相当なカロリー消費をします。そのため、冗長なものや、簡単に理解できないメッセージは消費者の頭の中には残りません。簡潔に整理されたメッセージを発信しないと、到底その商品やサービスの良さは伝わりません。
「顧客に届くメッセージ」の作り方については、以下の書籍が大きな助けになるでしょう 。
 

『ストーリーブランド戦略』ドナルド・ミラー著 ダイレクト出版

 
ストーリーブランド社の創業者でコンサルタントのミラー氏は「消費者が買うのは、最高の商品ではなく、一番価値がわかりやすい商品だ」と説いています。
では、わかりやすさとはどのようにつくりだせるのでしょうか?

一つの方法として、誰もが理解しやすいストーリーを語り、見せることであると言っています。例としてアップル製品を挙げ、スティーブ・ジョブスが、買収したピクサーに影響を受けて、製品にストーリーを織り込むマーケティングに舵を切った事例を紹介して います。
これによって、アップルは機能を売るメーカーから脱皮することができました。

そして著者は、ストーリーを作り上げていくフレームワークとして「主人公」「問題の追及」「導き手」「計画の提示」「行動喚起」「成功する結末」「回避したい失敗」の7つのポイントで組み立てることを紹介しています。そのケーススタディとともに多くのハリウッドのヒット映画は、ほぼこのルールが採用されていることを指摘しています。
昨今、マーケティングストーリーや営業トークを組み立てるときに「主人公(顧客)」、そして「主人公の持つ問題(顧客課題)」を明確にし、「成功する結末」を提示する、つまり提供する製品、サービスの機能ではなく、その解決となるソリューションを提示する提案型の重要性は広く認知されていると思います。しかしながら、ここで説明されている顧客を成功に導く「信頼できる導き手」と「その導き手が示す工程。計画の提示」が多くの場合、欠如しているように感じます。

誰もが知っている『スター・ ウォーズ』(エピソードⅣ~Ⅵ)においては、主人公ルーク・スカイウォーカーにとって信頼できる導き手は、オビ=ワンやヨーダであり、映画の中で彼らはフォースを習得するまでにルークが乗り越えなくてはならないステップを暗に提示しています。ルークが突然、次の日フォースを身に着けて万能になってすべてを解決してしまえば興ざめですし、特別な誰かのものだけのストーリーになってしまうでしょう。
実際の購買においても自分がその商品をうまく使いこなすためのステップが想像できるものであれば、より興味や魅力を感じるのではないでしょうか?
買ってもらいたいターゲットユーザーに対してキラーメッセージを伝えることは、カスタマージャーニーの中においても最も重要なプロセスと言えます。顧客が耳を傾ける、記憶に残すためのストーリーから、メッセージづくりをスタートするというのは、たいへん効果的だと思います。

 


 

今回、このブログで紹介した本のノウハウは今日からでも実践が可能です。
ぜひ、そこで紹介されるフレームワークを試してみてください。
そして、それぞれの本で用意されているフレームワークのワークシートを皆様の会社のビジネス状況、顧客、役割に当てはめていただき、今年の行動を変えてみてください。
昨年末には想像していなかった結果を、皆様が得られることを祈っております。

シルバーエッグ・テクノロジーは皆様のよき「導き手」となれますよう社員一同より一層努力してまいります。
本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。

 

【執筆者プロフィール】
CMO 執行役員 マーケティング部
ディレクター 倉石 英典

1991年立教大学卒業後、松下電器産業株式会社(現パナソニック)入社、携帯電話の市場参入にマーケティング担当として参画。1997年マイクロソフト(現日本マイクロソフト)入社を機に以降、大手外資系IT企業3社にてマーケティング責任者として従事。2021年、シルバーエッグ・テクノロジーに入社。執行役員CMOマーケティング部ディレクターとして、現在に至る。

 



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