人材業界で使われるパーソナライゼーション – 前編:人材業界の概観と、DXの進展
インターネット上に情報が溢れるデジタル時代、ユーザーが求めるものは多様化しています。個々に合った情報を提供するため、さまざまな業界でサービスの「パーソナライズ」が求められるようになっています。
中でも、ユーザーの興味や志望にマッチした情報を提供することが必要とされる人材・求人業界は、パーソナライゼーション技術が重視され、その活用度も高い傾向にあります。
シルバーエッグ・テクノロジーは、これまで多くの人材・求人サービスにレコメンドエンジンを中核とした、パーソナライゼーション技術を提供してきました。今回、人材・求人業界のサービスが時代に沿ってどう変化してきたかを整理し、そこで活用されるパーソナライゼーションの手法について、2回にわたり解説します。
前編の今回は、人材・求人市場の概観やトレンド、利用されるパーソナライゼーション技術の基礎について見ていきます。
【INDEX】
・まとめ
はじめに:人材・求人業界の現状
まずは、国内の人材・求人業界を取りまく、外部環境から理解していきましょう。
日本の生産労働人口(15~64歳)は、少子高齢化が進んでいることから低下し続けていますが、労働力人口と就業者人口は増加しています。さらに、2021年の4月に70歳までの就業機会確保を努力義務とする「改正高齢者雇用安定法」が施行されました。
一方で、企業は要件に合ったスキルを持つ人材がより求められるようになっています。例えば、「IT人材」は、現在のDX(デジタルトランスフォーメーション)の潮流の中で非常に注目されるスキル人材の一つと言えるでしょう。
このような背景もあり、人材・求人サービス産業は今後も成長が続くと見込まれています。2020年からのコロナ禍で一時的に特定の業界・業種にネガティブな影響が出たものの、前述のIT業界のように活性化している業種も増えています。
働き方の多様化も定着しつつあり、正社員やパートなどの従来型の求人だけでなく、副業やスキルマッチングといった求人も活発化していくと予想されています。
*図1
出典:総務省統計局「労働力調査」令和2年版厚生労働白書
https://www.mhlw.go.jp/stf/wp/hakusyo/kousei/19/index.html
なお、一般社団法人 人材サービス産業協議会『2030年の労働市場と人材サービス産業の役割』によると、人材・求人業界の市場規模(売上)は9兆9,704億円とされています。
*図2
出典:『2030年の労働市場と人材サービス産業の役割』一般社団法人 人材サービス産業協議会
http://j-hr.or.jp/wp/wp-content/uploads/JHR_JHR_2030_report_20210125.pdf
デジタル化した人材・求人業界のメディアトレンド
成長を続ける人材・求人産業のサービスは、どのように変化してきたのでしょうか? 情報のあふれるデジタル時代だからこそ、就職や転職希望の求職者向けのメディア施策も、テクノロジーの力でよりスマートに進化を続けています。
インターネットが一般化する前まで、求人といえば企業が広告会社を利用して、紙媒体のみ活用して行うものでした。あるいは専門のエージェント(ヘッドハンター)が、ごく一握りの人材を企業に紹介するといったことも行われていました。
しかし、紙ベースの求人は単純なマス向けアプローチであり、誰がその求人広告を閲覧し興味を示したかは、実際に応募がない限り確認することはできませんでした。さらに、一般求人にしろヘッドハンティングにしろ、すべてアナログなやり取りとなるため、情報のやり取りにコストと時間がかかり、結果として企業も求職者も選択肢が狭まりました。
そのため、人材・求人広告会社は早くから紙媒体からWebサイトへのシフトを始め、求人情報をより効果的に発信し、応募者を増やすためのサービスを提供するようになりました。その形態は、アナログ時代を継承する形で、「エージェント型」「求人広告型」の2種類に大別できます。
「エージェント型」とは、人材サービス事業者のサイトに登録したユーザー(求職者)と、求人企業が登録した求人案件を、事業者のエージェントが相互に結びつけ紹介する、マッチング仲介サービスです。求職者がサイト上の求人案件から関心のあるものをピックアップし、エージェントが一次スクリーニングを行ってから紹介する場合も、その逆である「逆スカウト」の場合もあります。人材サービスの収益源は、仲介の成功報酬が中心となります。
「求人広告型」とは、人材サービス事業者のWebサイト上に企業が求人情報を掲載し、そのサイトで情報を閲覧したユーザー(求職者)が求人企業に直接、応募情報を送る仕組みのサービスです。人材サービスの収益源は、広告掲載料が中心となります。
どちらのサービスモデルも、実際は人材サービス事業者ごとにさまざまな付加価値がつけられており、重視するKPIも多様化しているため、シンプルに区別できるというわけではありません。
ただ、どちらにも言えることは、Webを活用することで、求人企業と求職者どちらにとっても、より多くの情報に、より簡単にいつでもどこでもアクセスすることができるようになったということです。選択の幅(言い換えれば雇用・就業の機会)が広がったとも言えるでしょう。
また、求職者や求人企業の情報がすべてオンライン上で管理されるようになり、互いの情報交換やコミュニケーションが円滑化されたり、情報発信のタイムラグを無くしたりと、紙媒体の時代では得られなかった付加価値が生み出されています。
労働人口の増加に加え、人材サービス事業者のサービス拡充により、その利用者は増え続けています。例えば、大手転職サービスの新規登録者数は、毎月5~10 万人の単位で継続的に増え続けていると言われています。
求人情報提供サービスで使われるパーソナライゼーション技術
Webサービスの活用によって、求人企業の採用業務も、求職者の職探しも、それぞれ効率化され、その分多くの情報(求人案件・求職者リスト)にアクセスできるようになりました。
しかし、問題は「自分にあった職が見つかるか」「自社に適した人材が応募してくるか」です。特に、人材サービス事業者に費用を払っている企業にとっては、求めている人材がどれだけ得られるかは、最大の関心事であり、事業者選びのKPIとなります。
事業者は、いくつかの手法を使って求職者にパーソナライズした求人情報を送り、マッチ度を高めています。具体的にどのような手法があるのか、見てみましょう。
業界・分野特集などの「ターゲティングメール」
一般的なパーソナライゼーション手法は、業界・分野特集などの「ターゲティングメール」です。
全国求人情報協会の『求人メディアの現状と新しいサービス形態』調査によると、人材・求人業界全体の45.1%がターゲティングメール機能を活用しています。このメールは、求職者がサイトに登録した経歴や希望職種などの属性をもとにセグメントを作り、条件に合うセグメント(ターゲット)に対して求人情報を配信します。ターゲットごとに指標や設定、文面をカスタマイズし、求職者の関心を引くこともできます。
ただ、ターゲティングは、事前にユーザーが自己申告した本人の属性や、興味のある職種・業界といった情報に頼って行われます。
属性データに虚偽が入っていたり、興味のある業界が変わったりした場合、マッチしない案件が送られ続けることになります。また、求職者本人が気づいていない「実はマッチしている業種・業界」の案件は、送られることはありません。広告の成果に繋がらない場合も多々あります。
個々に合った求人情報を提供する「レコメンドサービス」
そこで、多くの求人サービスでは、より精緻なパーソナライゼーションを実現する「レコメンドエンジン」の活用を、サービスのコア技術として採用しています。
レコメンドエンジンは、求人案件の内容を分析し、求職者がいま見ている案件と似た内容の案件を提案するものや、ある求人案件に対しどのようなユーザーが閲覧し、応募したかを分析し、似た傾向のあるユーザーに同じ求人案件を提案するものがあります。
属性などのセグメントで一律に判断するのではなく、求職者一人ひとりにより親和性の高い求人案件を提示できるのが特徴です。逆に言えば、求人企業により親和性の高い人材を得られることになります。
特に、ユーザーのサイト内での行動は、虚偽の無い自発的なものであり、ユーザーがその瞬間何に興味を持っているのかが強く反映されます。個々のニーズを最も明確にできるデータとされています。
前述の『求人メディアの現状と新しいサービス形態』調査によると、レコメンド機能は、人材・求人サービスの56.9%(対象者の82.8%は求職者向け)で利用されています。レコメンドサービスは、ターゲティングサービス以上に、人材・求人業界において不可欠な機能となっているのです。
まとめ
ここまで、就労に関する日本の現状、そして人材・求人業界におけるメディアトレンドと情報提供サービスの変化について紹介してきました。
今後も人材・求人業界ではDXが進み、クラウドソーシングを活用したマッチングや、スカウトデータベースなどといった人材サービスが拡大されることで、競争が激化すると予想されています。求人サービス事業者にとって、求人企業と求職者の双方に対しいかに寄り添い、有益な情報を提案できているかが、競争に勝ち抜く鍵となってきます。
後編では、人材・求人業界のビジネスモデル、さらにレコメンドを活用したソリューション提案をより詳細に紹介していきます。