人材業界で使われるパーソナライゼーション – 後編:AIレコメンドを活用した人材・求人業界のソリューションと事例
競争に勝ち抜く鍵は、求人企業と求職者の双方に対し寄り添い有益な情報を提供できているか
シルバーエッグ・テクノロジーは、多くの人材・求人サービスにレコメンドエンジンを中核としたパーソナライゼーション技術を提供しています。
その知見を活かし、本ブログでは「人材業界で使われるパーソナライゼーション」について、前-後編の2回にわたり掲載しています。
前編では、人材・求人市場の概観やトレンドとそこで利用されるパーソナライゼーション技術を扱いました。
後編となる今回は、人材・求人業界におけるサイト運用の課題とAIレコメンドを活用したソリューションについて解説します。
【INDEX】
・人材・求人サービスのタイプと課題
・AIレコメンドで実現できるソリューション
・成功事例
・まとめ
人材・求人サービスのタイプと課題
人材・求人サービスは、求人のタイプや職種に応じて多様化しており、ビジネスモデルもサイト運用の課題も、一様とは言えません。
ここでは主要なビジネスモデルである「求人広告型」と「エージェント型」の2つに焦点を当て、それぞれの課題を分析します。
求人広告型サービスとは、求人サイト上に企業が求人情報を掲載し、それを閲覧したユーザー(求職者)が、求人企業に直接応募する仕組みのサービスです。求人広告型サイトの収益源は、求人情報としての広告の掲載料が中心となります。
これに対して、エージェント型サービスとは、求人サイトに登録したユーザー(求職者)と、求人企業が登録した求人案件を、エージェントが相互に結びつけ紹介する、マッチング仲介サービスです。エージェント型サイトの収益源は、仲介の成功報酬が中心となります。
この違いを踏まえそれぞれの課題をまとめました。
求人広告型人材サービスの課題
求人広告型サービスの場合、まずは各求人に対する応募者をできるだけ多く獲得し、顧客(求人企業)が求める人材を選びやすいようにすることが要求されます。
そのために求人広告型サービスを提供する企業は次の課題に取り組む必要があります。
・求職者の応募を活性化する
・応募が特定企業の求人のみに集中しないようにし、幅広い求人案件に応募される機会を作る
・求職者の希望する求人がすぐに見つかるようにする
・休眠中の登録者への応募喚起
エージェント型人材サービスの課題
エージェント型人材サービスの場合、求人企業の要件を満たした求職者を紹介するために、幅広い人材をサービスに登録させ、紹介可能な母集団としておくことが重要です。しかし、そこから成約に繋げ、顧客となる企業と長期的関係を構築していくためには、次のような課題に取り組んでいくことが重要です。
・求人企業と求職者のミスマッチを防ぐ(仲介された求職者が求人企業の要求に合っている)
・登録者の求人への応募を活性化する
・休眠中の登録者への応募の喚起
「登録者の応募の活性化」や「休眠登録者への応募喚起」は、求人広告型とエージェント型の両方に共通の課題といえます。
他方で、「応募が特定企業の求人のみに集中しないようにする」というのは、求職者が直接求人に応募する求人広告型の人材サイトでより重要な課題となってきます。また「求職者の希望する求人」を見つけにくいサイトは、せっかく登録に至ってもサイト再訪の機会を著しく喪失するため、改善の必要があります。
仲介の成功報酬が収益源となるエージェント型人材サイトでは、応募を増やす一方で「ミスマッチを防ぐ」ということも重要な課題となります。
AIレコメンドで実現できるソリューション
このような課題を解決するためにはどのような方法があるでしょうか。
重要なのは、それぞれの課題を解決するためのデジタル上の「仕掛け」作りです。
その解決の鍵となるのはパーソナライゼーションの強化であり、AIレコメンドはこれらの課題の解決に貢献します。
ここでは、それぞれの課題に対してリアルタイム・レコメンドサービス「アイジェント・レコメンダー」が提供するパーソナライゼーションの仕掛けと、その応用についてまとめています。
「求職者の希望する求人がすぐに見つかる」ようにするための仕掛け
「求職者の希望する求人がすぐに見つかるようにする」ためには、できるだけ登録者それぞれのニーズに合った求人情報が、登録者がわざわざ探さなくてもサイト訪問時におのずと目につくようにする工夫が必要です。この課題の解決は、実はもう一つの課題「登録者の応募を活性化」の解決にも繋がります。
登録者が希望する条件の求人情報に簡単にアクセスできる仕掛けとしては、検索のフィルタリング機能の強化や検索条件の保存も有効ですが、検索は能動的な行為です。
情報収集目的で、そこまで求職活動に意欲的ではない求職者も多く存在します。検索というアクションを挟まなくとも、ニーズに合う求人情報がすぐに目につくようにするには、おすすめ求人としてのレコメンド表示のUIの工夫や機能の強化が効果的です。
この課題に貢献する「アイジェント・レコメンダー」の機能は、次の3点に集約されます。
・ユーザー行動情報分析に基づくレコメンドアルゴリズム
求職者サイト上の行動情報から、求職者一人ひとりの関心・嗜好に合わせてパーソナライズした求人案件を表示させることができます。
・顧客の傾向に合わせてアルゴリズムを細かくチューニング可能
「アイジェント・レコメンダー」は行動情報をベースにしているとはいえ、複数のレコメンドアルゴリズムを採用しており、コンサルタントにご相談いただければ、より効果を高くするためのABテストやアルゴリズムのチューニングも可能です。一例としては、レコメンドの表示内容を、求職者の指定した特定カテゴリーの案件のみにフィルタリングすることで、不要な情報をレコメンド表示に表示させない、といったカスタマイズなどがあります。
・サイト上の行動をリアルタイムにレコメンドに反映
求職者が「いま」クリックした案件を解析し、次のレコメンドに反映します。たとえば最初の条件では思うような求人情報が見つからず、条件を緩和して探し始めたような場合には、次の瞬間にはその行動情報が反映されます。顧客のニーズに迅速に対応できるため、機会喪失を防ぎます。
また、レコメンドの表示位置やタッチポイントを工夫することで、さらに効果を上げることもできます。
・表示箇所の工夫
Topページ、カテゴリページ、詳細ページ、応募完了ページなど、サイト内のさまざな箇所で、レコメンド表示枠を柔軟に提示することができます。とくにトップぺージや、レコメンドのみの専用ページを作ると高い効果を発揮します。
・フォローメール
応募後の確認メールは、通常のメルマガよりも求職者が開封する確率が高いです。このとき確認内容に加え、応募した求人案件をもとに別の求人案件をレコメンドすることで、次の応募へつなげることができます。
・接客ツールと連携
顧客の行動をトリガーとしてパーソナライズした求職案件をポップアップ表示することも可能です。ポップアップは表示するタイミングを調整することができます。たとえばページを下の方まで閲覧したタイミングで、つぎのおすすめ求人案件を表示させると、サイト回遊率の向上に繋がります。
「なかなか思うような求人案件が見つからない」という経験をすると、そのサイトに対する求職者の期待値が下がるばかりか、求職への意欲も消極的なものとなってしまう可能性があります。
逆に求職者が能動的に探さなくとも、ニーズに合った求人案件が次々に自然と目につくサイトでは、求職者の意欲も高まります。
高度なレコメンド機能と表示位置や方法の工夫で、「希望する求人がすぐに見つかるようにする」ことは、そのような意味でも非常に重要です。
求職者の意欲の向上は、結果として「登録者の応募を活性化」することにも繋がります。
「幅広い求人案件に応募される機会を作る」ための仕掛け
求職者が直接求人に応募する場合、どうしても有名な特定企業の求人のみに応募が集中してしまいます。
しかし企業の知名度は重要ではありますが、それ以上に求職者にとって重要なのは希望する条件に見合っているかということです。また採用する企業側にとっても、特定の企業にのみ応募が集中し、それ以外は求人情報の閲覧数すら十分ではない、といったサイトは避けたいはずです。
アマゾンを中心とする物販系のECでは、「ロングテール戦略」と言われるニッチ商品を積極的に販売する仕組みを、レコメンドエンジンを通じて実現していますが、アイジェント・レコメンダーは、この方法論を人材紹介のサイトでも応用することができます。
その一例として、閲覧-閲覧相関アルゴリズムの活用が挙げられます。
閲覧–閲覧相関アルゴリズムの活用
応募数の少ない案件でも、「過去にどんな人から見られたか。また、それを見た人が他にどんな案件を見てきたか」という僅かな手がかりから、似た応募傾向を持つ人を予測し、サイトやメールでレコメンドすることが可能です。
このアルゴリズムの応用で、特に応募の集まりづらい案件に対し、DB上でフラグ(「掲載からN日経過」など)を付けることで、ユーザーに対しその案件の中から適した案件を提案することも可能です。
ただ、本当にニッチすぎて誰からも見られていない案件ですと、AIも手がかりがなさすぎてレコメンドできない可能性があります。求人案件がサイトに掲載されたときに、初動でなるべく多くの人に見ていただく工夫が別途必要です。
「求人企業と求職者のミスマッチを防ぐ」ための仕掛け
プロのエージェントが、求職者と求人企業双方が納得するマッチングを実現するからこそ、エージェント型人材サービスは信頼を得ることができます。
しかし、大量の求人、大量の求職者が日々登録されるなか、エージェントは情報をなかなか捌ききれずにいます。この課題も、AIを搭載したレコメンドエンジンを少し工夫して活用することで、緩和させることができます。
人材エージェントに対するレコメンド表示
求人エージェント用の管理画面に、担当する人材と親和性の高い求人案件をAIが選んで表示し、プロの目線によるスクリーニングを支援します
アイジェント・レコメンダーは、Webやアプリの様々な箇所に、様々な形式・デザインでレコメンドを表示させることができます。お客様(求職者)向けのサービス画面だけでなく、人材エージェント用のポータル画面に、個々の人材に適したレコメンドを表示させ、マッチングを促すことができます。
人材のプロの目線で、AIがレコメンドした求人案件を判断し、適切であれば求職者にご案内ください。この判断をAIが更に学習することで、アイジェント・レコメンダーは人材エージェントの優秀なアシスタントAIとして成長してゆきます。
「休眠中の登録者への応募喚起」のための仕掛け
情報収集目的でとりあえず登録してみた、といった求職者の場合、あまり積極的にサイトを再訪しないといったケースが考えられます。
こうした「休眠中の登録者」への応募喚起の施策として、多くの企業はメールマガジンなどを介して再訪や応募への喚起を促します。
「アイジェント・レコメンダー」はサイト上に表示させるレコメンドのためのサービスですが、オプション機能のレコメンドメール・サービス「レコガゾウ」を活用することで、メールでも同じ性能・機能のレコメンド表示が可能です。
メールでそのようなレコメンド表示をするメリットには、次のものが挙げられます。
- サイト登録から時間が経っても、その時点でユーザーにマッチしそうな求人案件をアルゴリズムが予測し、レコメンドすることができます
- メール開封時点で最新のレコメンドアイテムをサーバーから抽出・送信・メール内に表示します。リアルタイムに反映されるため、応募終了の案件が掲載されることはありません
- MAツールと連携し、ユーザーのステータスをトリガーとしたステップメールで、パーソナライズされた求人案件をレコメンド表示することもできます。
「レコガゾウ」は人材・求人業界でも大変好評いただいているサービスです。
「アイジェント・レコメンダー」のアルゴリズムを使用していますが、メール用にレコメンド内容をチューニングすることも可能です。せっかくサイト上のレコメンドが高性能に最適化されたものであっても、メールでのパーソナライゼーションが不十分だと、応募を促すための重要な機会を多く喪失することになります。
「レコガゾウ」は他社のさまざまなMAやCRMツールと連携し、メール配信に活用可能ですので、詳細についてはぜひお気軽にお問合せください。
事例
最後に「アイジェント・レコメンダー」を活用している人材・求人サイトの事例をいくつかご紹介します。
AIレコメンドの性能や活用方法、効果はもちろん、実際に抱えていた課題や導入時の検討事項についても言及されています。実際にサイト運用に携わる方々のリアルなインタビューです。
独立・開業情報サービスサイト「アントレ」:ユーザーファーストを実現し、長期的に安定した成果を出す
1997年にスタートした独立・開業情報サービス「アントレ」は、インターネットサービス黎明期の当時から、月刊誌と並んでアントレnetでの情報配信を行っており、現在は業界のトップランナーとして、「雇われない働き方」を志す方々に対し多様なサポートを展開しています。
コア事業は独立・開業支援ですが、地方の中小企業の事業継承・引継ぎ支援や、個人M&A支援など、ビジネスの領域は拡大しつつあります。コロナ禍や働き方の多様化といった大きなトレンドの変化に対して、安定した結果を維持するための運用、AIレコメンドのメールでの活用などについてお話を伺いしました。
「オー人事.net」:メールコミュニケーション最適化のために実装したリアルタイム・レコメンドで成果
株式会社スタッフサービス様が運営する「オー人事.net」は、人材派遣の登録サイトです。課題としては、就業しているスタッフとの、メールを介したコミュニケーションの改善がありました。メールを通じて魅力的な仕事情報を適切かつ継続的に届けることが出来なければ、他の人材派遣会社にスタッフを奪われてしまう可能性があるからです。
そのため、メールの改善を検討し、長年に渡り利用していたエクスペリアンジャパン社メール配信プラットフォームの「MailPublisher」経由での配信に、「レコガゾウ」を連携させることにしました。
結果として、スタッフに対してOne to One のお仕事情報をメールで紹介することができ、CTRが大きく改善しました。また、それまでマニュアルでピックアップしていたレコメンド表出ロジックが自動化され、メール作成にかかる工数も大きく削減できました。
まとめ
人材・求人業界では今後もますます競争が激化することが予想されています。
人材・求人サービスサイトの大きな特色は、「人」に対して商品のような「モノ」を提供するのではなく、「人」と「人」同士の繋がりを仲介しているということです。
そのため、競争に勝ち抜く鍵は、求人企業と求職者の双方に対しいかに寄り添い、有益な情報を提供できているかです。
顧客となる求人企業はできるだけ短期間で採用人材を見つけたいという要求があり、人材サービス企業は、そのためにも「幅広い求人案件に応募される機会」を作っていくことが求められます。また、求職者は人材・求人サイトに対して希望する求人案件がすぐに見つかることを要求します。「自分の条件に見合う求人案件を多く扱っている」と求職者が感じるサイトは、再訪や回遊される可能性も高く、同時に求職者の仕事探しに対する意欲を高めます。結果として人材サービス企業の課題である「登録者の応募の活性化」や「休眠中の登録者へ応募喚起」の解決に繋がる取り組みにもなります。
しかし、こうした課題解決のためのサイト上の仕掛け作りは、パーソナライゼーションを核としたAIによるレコメンデーション技術がなければ困難なものです。また、求職者を意欲づけ、できるだけたくさんの応募を促すには、さまざまなタッチポイントで高性能なパーソナライゼーション技術を活用することが重要です。