2022年調査レポート:ファッションECサイトにみるレコメンドエンジンの効果
おすすめ商品を表示するレコメンドは、ECサイトで活用されているツールやサービスの中でも、いまやもっとも基本的な機能の一つです。
ECのプラットフォームの一機能として最初から組み込まれている場合も多く、レコメンドの意義や効果についてあまり深く考えず、なんとなく設置しているサイトも多いのではないでしょうか。
そもそもどのような指標でレコメンドの効果を計ることができるのでしょうか。
本レポートでは、2021年のファッション業界におけるレコメンドエンジン利用状況を調査し、そのレポートをもとに、効果測定に用いる指標と実際の効果を見ていきます。
サイト規模ごとに効果をまとめていますので、自社のサイトの規模と照らし合わせたベンチマークとしてご覧いただけます。
【INDEX】
・調査方法と3つの効果指標
・レコメンド経由コンバージョン率
・レコメンド売上貢献率
・セット率(同時購買点数)とレコメンド
・まとめ
調査方法と3つの効果指標
調査対象はシルバーエッグの顧客に限定しています。
対 象: 弊社にてファッション業界に分類するサイト
計測期間: 2021年1月~12月
方 法: ファッションECサイト30社を集計
レコメンド効果測定の3つの指標
レコメンド経由コンバージョン率(%)
レコメンド表示枠のアイテムがクリックされ、そのアイテムが購入された割合を「レコメンド経由コンバージョン」とします。この割合は次のように算出されます。
経由コンバージョン率=経由コンバージョン÷コンバージョン数
レコメンド売上貢献率(%)
レコメンド経由コンバージョンの売上額を全体の総売上額で割ったものを、「レコメンド売上貢献率」とします。
売上貢献率=経由コンバージョン額÷コンバージョン額
これにより、レコメンド経由の売上額が全体の売上に貢献している割合がわかります。この割合が高いほど、レコメンドがアップセルに貢献していると言えます。
セット率(同時購買点数)(%)
ファッション業界でとくに期待されるのが、レコメンド経由による「セット率(同時購買点数)」です。
セット率とは、顧客が一度の買い物で購入した商品点数の一人当たり平均値です。
セット率が高いとまとめ買いする顧客や一人当たりのまとめ買いの点数が多いということになり、クロスセルの指標となります。
セット率に対するレコメンドの貢献度合いは、「レコメンド枠を利用して買い物をしたユーザー」と「レコメンド枠を利用せずに買い物をしたユーザー」それぞれの平均のセット率(同時購買点数)を比較することで測定できます。
今回のレポートでは、コンバージョン(購入)をレコメンド経由とみなすのは、同一セッション内で、あるアイテムがクリックされコンバージョンに至った場合に限定されます。
このとき「同一セッション内」とは、閲覧者をトラッキングするセッションが切り替わることなく継続した場合です。リクエストが途切れると通常1時間でセッションは切り替わります *。
たとえば、ユーザーが朝レコメンドから商品をクリックし、そのままスマートフォンを閉じ、昼に再度サイトを訪問して閲覧履歴から同じ商品を購入したとしても、レコメンド経由コンバージョンにはなりません。
シルバーエッグによる「レコメンド経由」のこの基準は、レコメンドの貢献を正確に示すために設定されています。
この基準は、レコメンドサービスを提供する企業ごとに異なりますが、クリック後30日までを経由とみなすサービスが多いようです。しかし、クリック後何週間も経ってからアイテムを購入したとしても、レコメンドが購入の直接の動機となったとは言いがたいのではないでしょうか。
注意しなければならないのは、成果課金の場合、このレコメンド経由のみなし期間が長ければ長いほど、本来直接の購入動機ではないはずのレコメンドが成果にカウントされ、それに対して支払う金額も大きくなるということです。
* リクエストが途切れなかった場合は最大前日まで辿ることになります。
レコメンド経由コンバージョン率
下のグラフはファッション業界の任意30サイトの顧客の年間のレコメンド経由コンバージョンを算出した結果です。
商品詳細ページのページビュー数に応じて、大規模・中規模・小規模にサイトを分類し、該当するサイトの平均値を算出しています *。
大規模サイトの多くは知名度も高く、複数のアパレルブランドを取り扱っているサイトです。中規模サイトは知名度は高いが単一のブランドのみの取り扱いであったり、特定のスタイルに特化したサイトが多いです。小規模サイトは必ずしも有名なブランドばかりではなく、やはり特定のテイストや用途に偏ったサイトが多いです。
全体平均だとレコメンド経由のコンバージョン率は13.11%となっています。単純計算だと全体購入数が100のとき、13はレコメンドを経由して購入されていることになります。
サイト規模別にみると、小規模(21.37%)、大規模(14.64%)、中規模(8.60%)となりました。
サイト規模によってレコメンド経由コンバージョン率は大きく異なっていることがわかります。
一般にレコメンドエンジンは商品点数が多いサイトほど効果を発揮します。
このためモールサイトのような大規模なサイトのレコメンド経由コンバージョン率がもっとも高くなることが予想されましたが、結果としては小規模サイトの経由コンバージョンが21.37%ともっとも高い結果となりました。
アイテム数が少ないとユーザーはサイト内を徘徊して商品を探す行動は抑制されますが、レコメンドで関心のある商品が目につきやすくなることで回遊が促進され、結果として購入を底上げしているとみることができます。
一方、成熟した大規模なサイトでも14.64%という高い数値を出しています。商品点数が多かったり、取り扱いブランドが多いサイトでは、カテゴリやブランドを横断して商品を提案することのできるレコメンド表示は、購入のきっかけとなりやすいため、これは妥当な結果と言えるでしょう。
他方で、中規模サイトは10%を下回る結果となりました。これは、今回の調査では専門的なアイテムや特定のスタイルを扱うサイトが多かったことが原因と考えられます。
しかし実際には、中規模サイトの中にはレコメンド経由コンバージョン率が35%を超えるサイトもあり、サイトで扱う商品の特性によってこの数字は大きく変わってきます。
また、サイトの規模を問わず、PCなどのデスクトップデバイスとスマートフォンのデバイスでは、そのコンバージョン数は圧倒的にスマートフォンの方が多いことがわかります。
ただし全体に占めるレコメンド経由の割合の差は最大でも2%に満たないものでした。
実際にはデバイスのUI上の違いにも左右されるはずですが、ある程度標準的なUI表示の場合、PC/スマートフォンというデバイスの違いよりも、サイトの規模や商材の特性に影響される側面が強いといえます。
* サイト規模の基準は商品詳細ページのページビュー数に応じて次のように分類しています。
大規模サイト: 300万PV以上
中規模サイト: 100万~300万PV
小規模サイト: 100万PV以下
レコメンド売上貢献率
売れた商品の数上のレコメンド経由の割合を見てきましたが、下のグラフで示すのは全体の売上に対してレコメンドを経由した売上金額、すなわちレコメンド売上貢献率です。
中規模サイトは先に言及した通り専門的であったり特定のスタイルに偏った衣類を扱うサイトが多いため、経由コンバージョン率と比例して低い貢献率(4.84%)となりましたが、平均的にはレコメンドが全体の売上の約1割に貢献していると言うことができます。
セット率(同時購買点数)とレコメンド
続いて主要なファッション系ECサイトにおけるセット率と、商品詳細ページにおけるレコメンドの表示枠数とUIをまとめました。
【PC】
【モバイル】
上の表の左側では、レコメンドを経由せずに購入したときのセット率と、レコメンドを経由したときのセット率を比較しています。
伸長率はレコメンドを経由したことによるセット率への影響を示しています。
各サイトともPCとモバイルのセット率には大きな差はないと言えます。
平均をみると、レコメンド非経由の場合平均的に約2点の商品が同時購入されているのに対し、レコメンドを経由することでこの数字が3点近くまで引き上げられていることがわかります。
サイトDはレコメンド非経由のセット率が3を超えており、レコメンド経由も5~6と非常に高いです。これはサイトDが低価格商品を多く扱っていることに起因しているものと推測できます。
メインの衣類のほかに、冬場であれば手袋やマフラーなど小物を、夏も帽子や日傘などちょっとした小物の買い足しを促すとセット率は上がりやすくなります。レコメンドはアイテムのカテゴリを横断することができるので、このような小物のクロスセルを促したいときにも効果的と言えます。
また、表の右側は商品詳細ページでレコメンドがどのように表示されているかを表しています。
実はこのレポートでは、レコメンド表示枠が多いほどセット率が高いという仮説を立てて出したものですが、実際に調査してみるとレコメンドのUIや表示するアイテム数は必ずしも影響しないという結果が見えてきました。
「タイル張り」とはいわゆるグリッド表示のことで、レコメンドの枠内にアイテムがタイル状に並んでいるUIです。「スライダー」はタイル張りでは下に続いていくはずの2行目以降の行がカルーセルにおさめられ、左右を表す「◀」「▶」といったボタンで続きのアイテムを表示するようになっているUIです。「アコーディオン」はこの中ではPCで一つ例があるだけです。やはりタイル張りの一行目だけが表示された状態ですが、下を表す「▼」ボタンをクリックするとさらにたくさんのレコメンドアイテムが展開され一覧表示できるUIです。
レコメンド枠にアイテムをたくさん表示したい場合、スライダーはページの長さを気にせず省スペースに表示させることができます。上の10サイトでは、E・B・Jでこれを活用していますが、いずれも40~50のアイテムを表示させています。
タイル張りは、もっとも一般的なもので、とくにスマートフォンで縦スクロールするときに一度に多くのアイテムが目に入るのでクリックを誘発しやすいといえますが、表示できるアイテム数は限られてきます。
サイトGでは、PCのUIでアコーディオンを採用し、モバイルでスライダー表示にするという工夫をしています。
その結果、セット率はPCで2.00、モバイルで2.37となりました。レコメンド非経由のセット率はPC/モバイルともに1.7前後とセット率がやや低めなサイトGですが、モバイルではレコメンド枠をスライダー表示にすることでセット率を大きく引き上げているといえます。
サイトGはモバイルでスライダー表示をする中でもっとも成功しているとも言えます。同サイトのスライダーの特徴を見ると、一つひとつのアイテム画像が大きくモバイルであっても見やすいと言えます。また、スライダーでは次のアイテム画像は半分見えかかっている状態で表示されるため、一度に目に入るレコメンドアイテムは少ないが、続きを見たいと思えるようなUIになっています。
サイトFは、一般的なファッションECサイトですが、PCモバイルともにDの次に伸長率が高いです。こちらもきわめてシンプルなタイル張りで表示枠も多くはないですが、特徴としてはやはりカテゴリ横断的にアイテムをレコメンドしている点を上げることができます。
セーターの商品詳細の下にパンツや財布、アクセサリーなどが表示されます。
D、Fに続くサイトCもまた一般的なファッションECサイトです。レコメンドの表示方法もタイル張りで12点とシンプルなものでした。
今回のレポートでは、セット率は必ずしもレコメンドの表示数や表示方法に依存しないという結果となりました。
当初はレコメンドで目に入るアイテムが多ければ、それだけいろいろな商品が欲しくなりクロスセルにつながるのではないかと予想されました。
しかし実際には、提示される選択肢の多さではなく、その内容が「これも買いたい」という動機づけに影響しているといえます。
ただ選択肢が多いだけではなく価格やカテゴリに幅を持たせることが重要です。
またタイル張りとスライダーはどちらがよいかという点に関しても同様です。上の表ではタイル張りがやや優勢なようにも見えますが、サイトGのようにスライダーでセット率を引き上げている例もあります。
これは単純にタイル張りとスライダーどちらが良いというよりは、ユーザー層がシンプルなUIを好むか、リッチなUIを好むかにかかわっているといえます。サイトGはユーザー層が若くスライダーに抵抗がないですが、サイトDやF、Cは幅広い世代を対象としています。
まとめ
経産省が取りまとめる電子商取引に関する市場調査では、アパレル業界のECは2021年にはEC化率21%を超える結果となりました(*)。
ECサイトの成熟にともないレコメンドサービスも当たり前なものとなりましたが、実際のところレコメンドはECサイトの顧客体験を向上し、売上を底上げしなければ意味がありません。
本レポートでは、ファッションECサイトにおいてレコメンドがどれだけ売上に貢献しているかを3つの指標からまとめたものでした。
・コンバージョン率
・売上貢献率
・セット率
ECサイトのコンバージョンとは商品の購入です。レコメンド経由コンバージョン率は全体平均で13.11となり、購入のうち1割以上がレコメンドを経由している結果となりました。
また、購入回数は増えても、売上金額に結びつかなければあまり意味がありません。
売上貢献率の平均は10.12%となり、こちらもやはり1割を超えました。
シルバーエッグのレコメンドが売上の1割以上を底上げしているということが言えます。
また、一人あたりの同時購買点数を表すセット率についても、レコメンドを経由しない場合に比べ、レコメンドを経由することでセット率がおよそ1.5倍まで引きあがるという結果となりました。
これらの結果から、レコメンドを経由することで顧客は自分の欲しい商品を見つけやすくなり、購入の動機も高まったと言うことができます。
とはいえ、これらの指標の基礎となる何を「レコメンド経由」とみなすかの要件は、レコメンドツールを提供する各社によって異なります。
レコメンドサービス選定の際には、この「みなし要件」が正しく定義されているかについても注意しましょう。
また、本レポートの結果はあくまで平均値です。
同じファッションECであっても、サイトの規模や取り扱う商品、ユーザーの世代や傾向によって期待できる成果や最適な設置方法は大きく異なることがおわかりいただけたと思います。
本レポートの結果を一つのベンチマークとして、レコメンドの運用に課題を感じたりレコメンドツールの選定する際には、サポートやコンサルタントによく相談できる関係であることも重要です。
* 経済産業省「令和3年度デジタル取引環境整備事業(電子商取引に関する市場調査)」, https://www.meti.go.jp/press/2022/08/20220812005/20220812005.html