ランディングページ最適化(LPO)で考慮すべきこと: A/Bテストではうまくいかない場合も? 基本とAI活用
ランディングページは一般に、ディスプレイ広告や自然検索からオウンドサイトに着地したユーザーを効率的にコンバージョンさせることを目的として制作されます。
そのため、サイトに着地する前の行動も含めた俯瞰的な制作/運用が重要です。
とはいえ、広告配信やSEO対策はPDCAサイクルが非常に速くリソースがかかる上、コストも膨大です。そのため一度公開すると、ランディングページの改善はつい後回しにされがちですが、本当にそのランディングページで良かったのでしょうか?
費用対効果を上げたいならば、いたずらに広告投資を増やすのではなくコンバージョン率を改善させる必要があります。その意味で、公開後のランディングページを見直し、最適化していくことは非常に重要です。
この記事ではランディングページの最適化(Landing Page Optimization)についてお伝えします。
LPOの基本と応用を押さえて着地したユーザーを確実にコンバージョンに繋げましょう
【INDEX】
・ランディングページの改善についての2つの観点
・ランディングページのA/Bテストで気をつけること
・A/Bテストによる機会損失とAI活用による解決
・まとめ
ランディングページの改善についての2つの観点
ランディングページの最適化といっても何から行えばいいのでしょうか?
ランディングページのコンバージョンには、大きく分けて2つの要素が影響します。
一つはキャッチコピーや画像、ボタンの形状といったランディングページ内の細かい諸要素で、もう一つはクリックした広告や検索履歴といった着地前のユーザー行動から見た全体的なシナリオです。
ランディングページの最適化というと、ついキャッチコピーや画像といった個々の細かい要素の比較検証にばかり着目してしまいますが、そもそもこの経路で着地した人には、どのようなページが効果的かという、より大局的な観点も非常に重要です。
それでは、2つの観点の最適化方法について見ていきましょう。
ページ内の各要素の最適化
ランディングページは通常縦長で、ユーザーはスクロールしながらブロックに分かれた各コンテンツを読んでいき、その過程ないし末尾でCTAボタンがクリックできるようになっている構成が多いです。
このような構成はスマートフォンで読むのにも相性が良く、また効果検証のノウハウも構築しやすいものとなっています。
ここでは標準的な縦長のランディングページの最適化について簡単にご紹介します。
さて、検証すべき要素にはどのようなものがあるでしょうか。
ランディングページの最終的なゴールは、もちろんボタンをクリックしてコンバージョンに繋げることです。
しかし、ボタンのクリック率やコンバージョン率だけを見ていても、具体的にそのページのどの要素を改善すればよいのか判断することはできません。
したがって、効果検証の際は、長いページをブロックに分け、それぞれどのブロックを最適化する必要があるのか見きわめる必要があります。
ブロックの主な区分としては、つぎの3つに区分することができます。
1. ファーストビュー:ページに着地してスクロールせずに目に入る
2. 中間のブロック:商品やサービスに興味を持ち始めスクロールしながら目にする
3. 最下部のCTAボタンブロック:ユーザーがアクションを検討する
ユーザーはこれらのブロックのどこで離脱しているのか、各ブロックを何%の人が読んでいるのか?ファーストビューでほとんどのユーザーが離脱していたら、その下のブロックでどんなに有益な情報を掲載していてもコンバージョンに至るのはほんのわずかです。
ヒートマップツール等を活用し、まずは各要素の読了率や離脱率を把握しておく必要があります。
ページ全体の最適化
ページ内の各要素の最適化はすでにターゲットが明確でそれに対するメッセージの方向性もある程度定まっていることが前提となります。
よく、ランディングページを成功させるには、ターゲットのリサーチを怠らずペルソナをしっかり設計して制作しましょうといったことが言われます。
しかし、現実にはそのような下準備を完璧にすることは難しく、どのようなランディングページで訴求すべきかはやってみないとわからないためターゲットを決めかねる、というケースも多いのではないでしょうか。
複数のランディングページを用意することができれば、この問題を解決できます。
ディスプレイ広告を使用してある商品を売りたいとき、その商品を訴求するのに、安さを売りにしたらよいのか、使いやすさを売りにしたらよいのか判断しかねるならば、それぞれの需要に合わせたシナリオのランディングページを2つ制作することがおすすめです。
あるいはシャープなUIとごちゃごちゃしたUIなど、デザインテイストがまったく異なるものを2つ制作してもよいかもしれません。
同じ商品を扱うランディングページが2つあれば、簡単なA/Bテストになります。
どちらのページの方がPVが多かったか?コンバージョンはどうか?
こうした比較により、同じ広告条件下で訪問するユーザーはどんなランディングページに強く惹かれるか、実際に購入するユーザーの場合はどうか、といったことが把握できます。
そもそものターゲット設定が誤っていないかの見極めになり、こうして得られたデータはその後のマーケティング施策にも役立てることができます。
ランディングページのA/Bテストで気をつけること
ランディングページの改善には、各要素の最適化と着地するユーザーに対してどんなシナリオやUIがより効果的かを検証したうえで行うページ全体の最適化があることが分かりましたが、検証ではどのようなことに気をつければ良いのでしょうか。
ランディングページの検証の基本はA/Bテスト(2つ以上の場合はA/B/nテスト)です。
その際、気をつけなければいけないのはテストすべき要素をできるだけ単純にし、一つ一つ順番に改善していくことです。
ファーストビューの離脱率が高いことが分かったならば、最初に目に入る写真の比較が最適化すべき要素の候補となるでしょう。同じランディングページで写真だけを差し替え、読了率の高い方が勝利となります。
中間のブロックのキャッチコピーにも問題がありそうならば、これも同じランディングページでキャッチコピーのみを差し替えて比較します。
注意しなければならないのは、両者を同時にテストしたい場合、ファーストビューの写真と中間のブロックのキャッチコピーの組み合わせだけランディングページの種類を用意しなければなりません。
① 写真A-コピーA
② 写真A-コピーB
③ 写真B-コピーA
④ 写真B-コピーB
すると各サンプル数は少なくなるため、検証結果の精度はやや落ちます。
テストの精度を求めたいならば写真のみの比較を行って一度勝者を決定した後で、キャッチコピーのみの比較をして再度結果を出した方が良いと言えますが、2段階の手順を踏むため、やや時間がかかる可能性があります。
どちらの手順がより適切かは、そのサイトのトラフィックやテストに費やせる時間によって異なってくるでしょう。
A/Bテストによる機会損失とAI活用による解決
A/Bテストで勝者を決定するには、検証に足るデータの蓄積とそれに費やされる時間が必要になります。しかも、一度勝者を決定すると、敗者はよほどのことがなければ顧みられることはありません。
実はA/Bテストのこうした特徴は大きな機会損失につながっています。
A/Bテストの要件と機会損失
次の例をみてください。
母集団に対して、サンプルサイズが1,000件必要とします。
テスト開始後、1日目で100件のサンプルが集まったとして、AとBそれぞれ5件と2件のコンバージョンが発生したとします。当然このサンプル数で勝者を決定することができません。十分なサンプルでなければ、将来的には結果が逆転する誤った勝者を決定してしまう可能性もあります。
10日経過してようやく1,000件のサンプル数を満たすことができましたが、AとBの差は大きく開き、その差分30件は機会を損失したことになります。
このように、A/Bテストのサンプルサイズとそれにかかる時間は正確な結果を得るために不可欠ですが、同時に、そのための過程で機会損失を回避することができません。
またA/Bテストの勝者は、判定を行う時点での静的な結果にすぎません。
将来的に起こりうるトレンドや季節の変化には対応しないため、状況の変化に応じて敗者が顧みられることはありません。
しかし、仮に統計上十分なサンプルサイズを満たしているからといって、ある時点で決定された判定が未来永劫逆転しないとは限らないのです。
このように、A/Bテストは最適化を行ううえでもっとも基本的な方法ですが、ある程度の機会損失があることを覚悟しなければならないのです。
良いとこ取りのギャンブラー!?バンディット・アルゴリズムを活用した動的解決
A/Bテストの機会損失の問題を考慮すると、1回1回のテストで勝者を決定するのではなく、動的に最適化する方法はないものかと思いいたるでしょう。
ここでは、そのような解決策として、「バンディット・アルゴリズム」あるいは「多腕バンディット」(MAB: Multi-armed Bandit)と呼ばれる機械学習のアルゴリズムをご紹介します。
日本語で「数多の腕をもつ盗賊」を意味するこのアルゴリズムは、スロットマシンに対峙するギャンブラーに喩えられるものです。
スロットの勝率はマシンによって異なりますが、どのマシンの勝率が高いかはギャンブラーにはわかりません。1台のスロットマシンに固執していると、他のマシンでもっと勝てる可能性を失ってしまいます。そこで、複数のマシンに腕を伸ばし、都度それぞれマシンの良いとこ取りをしようというのがバンディット・アルゴリズムの発想です。
このAIアルゴリズムはしばしば広告配信に活用されます。
たとえばクリック数とインプレッション数が同じ 2 つの競合する広告がある場合、クリックが最近の広告が優先されます。また、以前は CTR が非常に高かったものの、最近は反応が鈍くなっている広告の場合には、価値が低下した広告から別のより効果の高い広告に素早く移行します。
バンディット・アルゴリズムは、このようにして非効率的な広告に無駄なリソースを費やすことを回避します。
一般に広告のCTRは非常に低く0.5%にも満たないため、勝敗の判定は難しく僅差で勝敗を決定しなければなりません。しかし、この僅差によって、最終的に回収できる売上は大きく異なってくることは珍しくなく、A/Bテストには常に後悔がつきまといます。
このような事情でバンディット・アルゴリズムによる動的最適化が求められました。
このアルゴリズムは広告だけでなく、ランディングページの最適化にも効果が期待できます。
たとえばターゲットを決めかね、どちらのシナリオも活かしたい場合、バンディット・アルゴリズムを活用すれば機会損失を最小限に抑えながら、より最適な方を自動で選択させることができます。
最初はAのランディングページもBのランディングページも50%ずつ出現させ、クリック率(CTR)に応じてこの割合を動的に変化させるのです。
この場合、敗者が切り捨てられることはなく、トレンドや季節要因の影響にも自動的に対応します。
また、4パターン以上のランディングページでどのパターンがよいか決めかねるときにもおすすめです。
パターンが多くなると、それだけサンプルサイズを満たすのに時間がかかり機会損失が多くなるからです。
A/Bの2パターンの比較であればトラフィックは50%ずつになりますが、AA/AB/BA/BBの4パターンであれば各25%に分散され、テストには単純計算で倍の時間がかかります。
このとき、バンディット・アルゴリズムを使用すれば、勝敗を決定せずとも常時最適化が行われるため、機械損失は最小限に抑えられるというわけです。
まとめ
広告やSEO対策は投資しはじめるとキリがありません。
しかし、純粋にコンバージョンを増やしたいならばトラフィックの分母を増やすよりは、ランディングページの改善に着手することが一番の近道です。
ランディングページの設計と最適化には、大局的な観点と局所的な観点があります。流入経路から着地したユーザーがどんなページを目にすれば効果的かというページ全体に対する俯瞰的な観点と、実際にページを見始めてから各要素がどのようにユーザーに影響するかという局所的な観点です。
この2つの観点を念頭にランディングページを最適化をしていくならば、いずれにせよA/Bテストがもっとも基本的な論理検証の方法となります。
しかしA/Bテストは、ある時点で勝敗を決定しなければ次に進めないという静的な特徴ゆえに、機会損失を覚悟しなければなりません。
これに対して、バンディット・アルゴリズムは勝敗を決めるのではなく、動的に最適化を実行するため、A/Bテストの静的な欠点を回避することができます。
将来的な情勢変化が予測しづらく勝敗を決めたくなかったり、決めることが困難なほどサンプルが集まりにくい場合には、バンディット・アルゴリズムによる解決の方が適切と言えるでしょう。
とはいえ、バンディット・アルゴリズムにも欠点がないわけではありません。
A/Bテストであれば手動で勝敗を決定できますが、バンディット・アルゴリズムは機械学習であるためAIを搭載したツールやサービスの利用が前提となります。
しかし、一度このアルゴリズムを活用できる環境を整えてしまえば、A/Bテストのように人的な判定や裁量に頼ることなく、臨機応変にAIが自動最適化してくれます。
ランディングページへのバンディット・アルゴリズムの活用は、A/Bテストに割かねばならない時間的・人的リソースを大きく削減し、広告投資の回収にも貢献するため、今後ますます注目されるソリューションとなるでしょう。